アマゾンが描く2022年の世界(田中道昭)

『アマゾンが描く2022年の世界』 田中道昭 2017年12月 株式会社PHP研究所
 
 
 
 

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私が懇意にしている米国人のある著名な投資家は、米国の成長企業については配当をしていないことが投資の基準であると言っています。実際にマイクロソフトが長年の無配から配当を開始した時点で、彼の株式ポートフォリオから同社が外れました。
 
 

アマゾンについても無配であることが成長を続けている証拠であるとしています。成長企業は企業の回りに現在価値がポジティブとなるプロジェクトがある限りは投資を続ける。ただし、それに自信がなくなったら配当すべきであるというのが彼の明快な考え方です。
 
 

ミッションやビジョンが会社の未来の姿を描いたものだとするなら、バリューはそのための行動基準、会社が大切にしている価値観のようなものです。ベゾスは常々3つのバリューを口にしてきました。「顧客第一主義」「超長期思考」「イノベーションへの情熱」です。
 
 
 
 

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アマゾンの競争優位性は、顧客第一主義の徹底に宿っています。私の考えは、アマゾンはユーザー・エクスペリエンス(顧客の経験価値)を高める目的で「ビッグデータxAI」という手段を採用し、その結果高い競争優位性を実現している、というものです。
 
 

2016年には無人コンビニ「アマゾン・ゴー」の発表が話題になりましたが、これも創業から20年たってようやく「リアルワールドにおいてもネットと同等以上のユーザー・エクスペリエンスが提供できる」という確信が持てるだけの技術が成熟したということでしょう。
 
 

アマゾンは2017年10月「年内にアマゾン・エコーを日本で発売する」と発表しました。アマゾンはこれまでユーザー・エクスペリエンスにおいて妥協することはなかったことに鑑みると、「アレクサ」という音声AIの日本語翻訳が万全といえる段階にきたと考えられます。
 
 
 
 

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AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)はネット通販を支えるために多大な人、モノ、カネを投入して開発したクラウドコンピューティングの仕組みを社外に開放してビジネスにしたものです。アマゾンは、今では世界のクラウド市場の3割を占めています。
 
 

AWS事業は全社売上の9%、営業利益は驚きべきことに74%を占めています。営業利益率も高く、アマゾン全体の利益率が3%であるのに対し、AWS事業の利益率は25%にも及んでいます。AWSが公開以来60回以上も値下げを繰り返していますが、これを見る限りまだまだ値下げ余力はあると見ます。
 
 

サイバーセキュリティにおいて、日本企業はあまりにも無防備。残念ながら、自助努力では防ぎようがありません。そこでコストが安く、クラウドコンピューティングの世界における競争優位性も高いAWSを使う、という流れが加速しているのです。
 
 
 
 

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エコシステムとは、プラットフォームをその中核とするビジネス上の生態系や産業構造を表す言葉です。アマゾンのビジネスはアマゾン・エコーがプラットフォームとなり、アマゾン・アレクサがさまざまな商品、サービス、コンテンツを外部からも取り込んで大きな生態系を形成しています。
 
 

すでにスマートホームの領域から、AWSがカバーする広範囲の法人顧客網、さらには自動運転車であるスマート・カーの領域に至るまで、「アマゾン・アレクサ経済圏」ともいえる産業構造を形成しつつあります。
 
 

アマゾンと商品、サービス、コンテンツを提供するさまざまな企業との間には強固な経済関係や相互依存関係が構築され、相乗的、自律的、連鎖的に拡大していく。それがエコシステムなのです。なぜ、アマゾンはエコシステムやプラットフォームを指向するのでしょうか。
 
 

複数のパートナー会社とネットワークを構築することで他社を圧倒するサービスの質が実現できる、また顧客数に応じて膨大な量のビッグデータを得られる、そして複数のサービスをひとつの場所で提供するため既存のリソースを活用できること、つまりシナジーが期待できる。
 
 
 
 

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アマゾンは「ビッグデータ」という言葉がこれほど普及する以前から、ECサイトにおいて、購買履歴からリコメンデーション(顧客の好みを分析し紹介する)を行い、サイト内の行動履歴やクリック率からサイト環境を改善するなど、ビッグデータを徹底に活用してきました。
 
 

ビッグデータの集積装置としては、ECサイト、キンドル、アマゾン・エコー、アマゾン・アレクサ、アマゾン・ゴー(無人店舗)、ホールフーズなどがあります。これはすべて顧客に対するサービスそのものでありながら、ビッグデータの集積装置でもあるのです。
 
 

こうしたアマゾン本体のサービスと表裏一体の関係にあり「ビッグデータxAI」の領域で強烈なシナジーを生み出しているのがAWSです。アマゾンが消費者に向けたビジネスを展開する中で、これを支えるコンピューター部門であったAWSが、単独でビジネスを行うようになりました。
 
 
 
 

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ビッグデータを売上増につなげるとき、一つの強力なエンジンとなるのが、リコメンデーション機能です。アマゾンのリコメンデーション機能のアルゴリズムは「協調フィルタリング」といいます。ユーザーごとの購入予測モデルといってもいいでしょう。
 
 

アマゾンで使われている協調フィルタリングには、顧客に着目した分類やセグメンテーションであるユーザーベースの協調フィルタリングと、商品に着目した商品ベースの協調フィルタリングの2種類があります。
 
 

あるユーザーが商品をチェック又は購入したデータと、別のユーザーが商品をチェック又は購入したデータの両方を用いて、その購入パターンからユーザー同士の類似性や商品の共起性を解析「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というリコメンドにつなげます。
 
 
 
 

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クリティカル・シンキングは批判的思考法とも呼ばれます。現状から課題を見出し、分析したうえで、解決の仮説を立て、検証し、実行することです。与えられた問題を解決していくだけでなく、自ら合理性の高い問題設定や課題設定を行い、それらの問題を解決していきます。
 
 

クリティカル・シンキングにおいて、自分で課題や問題を設定することを「イシューを立てる」「論点を立てる」といいます。重要なのは、クリティカル・シンキングでは「論点を立てる力」と「長期の目標設定を行う能力」とが同じスキルセットであるとされていることです。
 
 

アマゾンにおいて、仕事を通じて養われる能力とは、実は「未来を創る力」であり、「論点を立てる力」であり「長期の目標設定を行う力」なのです。そして、それらは同じスキルセットなのです。
 
 
 
 

<アジアの王者「アリババの大戦略」と比較する>

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「アリババ」といえば、検索大手の「バイドゥ」、ソーシャルネットワーキングサービスの「テンセント」と並ぶ中国3強のIT企業の一つです。その中でもアリババは最大の時価総額を誇っており、操業わずか20年弱にして独占的ともいえる地位を築いた「帝国」です。
 
 

事業の柱となるEC事業は、企業間取引(BtoB)の「アリババドットコム」、CtoC マーケットプレイスの「タオバオマーケットプレイス」、BtoC ショッピングモールの「天猫 Tmall」など複数を展開しています。
 
 

とりわけ、QRコードを使ったスマホ決済サービス「アリペイ」は銀行が全国に行き渡っていない中国にあって浸透しきっています。もはや中国人の暮らしは、スマホ決済サービスの2強であるアリペイとウィーチャットペイがなければ成り立たないほどです。
 
 

アリババのビジョンの先には「社会的問題をインフラ構築で解決する」という大義があります。アリババが展開する複数のECサイトにしても、それは中小企業の事業支援インフラを構築するという使命に基づいています。
 
 
 
 

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