『アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦』 張剛(訳) 東洋経済新聞社版(2010年07月)
1/7
1999年2月(後に十八羅漢と呼ばれる創業者のうち)十五人の人間が集り起業の計画を練っていた。馬雲(ジャック・マー)は「君たちは課長、係長くらいまでしかなれない。それ以上の幹部は外からいい人材を雇うんだ」と宣言した。
スウェーデンの投資会社グループ副総裁、蔡崇信は投資の交渉をしようと四日間馬雲と過ごし、気が違ったかのような一つの決断をした。アリババに入ったのだ。蔡の加入はアリババへの国際投資を引き寄せる大きな力となった。
1999年10月、馬雲は孫正義と会うため北京に到着した。孫正義は馬雲の5、6分の説明だけでアリババのビジネスモデルを理解し、すぐに投資することを決定した。「六分で孫正義を落とした」というエピソードの真相だ。
2/7
当時、中国の中小企業と外国との貿易ルートは広州交易会しかなかった。馬雲(ジャック・マー)のB2Bビジネス構想はシンプルなものだ。ネット上に掲示板を作って、中小企業が同じページ上に情報を載せ、それで取引を促す。
2000年4月ナスダックの指数が下落しITバブルが崩壊する。中国事業部責任者の馬雲の妻、張瑛は言う。「2000年の年末は、株主の顔色が変わってきて『これ以上利益をあげられないようならホームページをぶっ壊すぞ』と脅すようになったわ」。
アリババは多くの事業を諦めなければならなかった。馬雲は「三つのB2C」戦略を決定した。「中国への回帰」は海外の支社をカットする。「沿岸部への回帰」は業務の中心を沿岸部の六省に集中する。「中心への回帰」は杭州に帰る。
3/7
馬雲(ジャック・マー)はイーベイはアリババによく似ていると考えていた。「イーベイはC2C業務、アリババはB2B業務をしている。このままではイーベイが企業の領域に侵入してくるかもしれない。それゆえ、我々は『タオバオ』を作り個人領域に進出する決断をした」。
2002年3月イーベイはヤフージャパンとソフトバンクにより日本市場から締め出された。日本で「走麦城(三国志の関羽の失敗の故事)」の教訓を経験したイーベイは、易趣(中国のC2C企業)の株の33%取得し中国C2C市場への参入を発表する。
「タオバオの第一期には一億元を投資したが、ライバルのイーベイの市場価値は700億ドルだった。僕がイーベイに戦いを挑むっていった時、投資家たちに『狂ってる』って言われたけど、ちゃんと勉強すれば大丈夫だと思った」。
4/7
イーベイは売り手から商品の登録費と売買手数料を取っていた。アメリカのやり方の中国版だった。当時タオバオが打ち出した無料というやり方は大変な魅力があった。中国人はインターネットのサービスに対し「無料にすべし」とまで考えていた。
タオバオのユーザーは多くが個人、相手を信用していいかどうかがポイントだった。アリババはアリペイを設立、支払いの安全を保証し売り買い双方の利益を確保した。このサービスがタオバオの成功にかかせなかった。
注意深い人なら、ソフトバンクが6000万ドルを出資しタオバオに絶大な投資をしていることに気づくだろう。タオバオとイーベイ易趣の戦争は「孫正義が金を出し、馬雲が力を出す」戦争なのだ。
5/7
イーベイのオークションは西洋では一般的な方法だが、中国、アジア諸国では新品が好まれる。タオバオは「ネットショッピング」に特化していき持久戦は2005年の第三四半期に終わり、イーベイはついに中国市場での自らの失敗を悟った。
2005年8月アリババはヤフーチャイナの全資産を買い取り、同時にヤフーは10億ドルでアリババの40%の利益および35%の株を取得したと発表した。しかしアメリカで『フォーブス』の表紙を飾った見出しは「ヤフー、アリババの株40%を買収」であった。
2007年1月馬雲は企業のビジネスソフトの領域に進出することを宣言し、一億元をアリババ5番目(アリババ、タオバオ、アリペイ、ヤフーチャイナに次ぐ)の大業務、アリババソフトウェア有限公司(アリソフト)に投資した。
視野が広いのが馬雲(ジャック・マー)の最大の長所のうちの一つである。しかし、さらに大きな彼の特徴は「生まれながらにして安心感が欠けている」ことであった。彼は自分でもそのことを否定しない。
6/7
アリババB2Bは、国内での売買と国際貿易からなる。国際貿易の会員数は2006年に300万を超え、売買額は2005年の200億ドルから、さらに伸びて260億ドルに達した。国内売買でも会員数は1600万社を超えた。
2007年7月、アリババはアメリカの『フォーチュン』誌傘下の雑誌が選んだ「世界の企業家が選ぶサイト」で首位となった。アリババは、海外にいるアメリカのビジネスマンにとって最も価値のあるサイトの中の唯一のアジアサイトだった。
2007年11月、アリババは香港証券取引所に上場、この日時価総額260億ドルで中国インターネット企業のトップに躍り出た。IPOのおかげでアリババは一夜にしてグループ全体の7000人強の社員のうち70%が「富豪サラリーマン」になった。
7/7
「冬が終わり、われわれだけが生きのびて、企業はほとんど死んでしまったら、つまり、アリババがサービスを提供する会社が失敗したら、アリババの存在する意義もなくなる」。
「私は在庫のない商品情報は削除するよう、あるテナントに言いました。私にとって、ネット業者の最大の価値は誠実さと信頼です。アリババとタオバオでは誠実さと信頼がますます重視されていくことを確信しています」。
「多くの人は、チャンスはアリババ、タオバオ、百度、グーグルに奪われたと言っています。しかし、私がお伝えしたいのは、チャンスはまだ到来していないということです」。ジャック・マー