『モダン・ゴルフ』ベン・ホーガン 塩谷紘(訳) 2002年11月 ベースボール・マガジン社
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はじめに
ゴルファーは、このゲームでは婚約期間が長いことを承知している。彼女は好意らしい好意など、ほとんど見せずに相手を騙し続けるが、男のほうは、彼女のほんの少しの好意に触れただけで、征服への夢を膨らませていくのである。
すると今度は彼女は男を蔑み、侮辱する、それを友人たちの面前でおこなうのだ。ときには男は怒り狂うことによって失意を隠そうとする。クラブを全部ウォーターハザードに叩き込み、新品のボールをキャディにやってしまう。ゴルフなんかもう止めた、というわけである。
もちろん、男は戻ってくる。そして突然、奇跡が起こる。何をやってもうまくいかなかった失意の男が、今度は、何をやってもうまくいくようになるのだ。全ての秘密がやっと解明できた。しかし、ここで再び、このゲーム、すなわち、この魔性の女が男を不幸のどん底につき落とす。
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本書を通して私が読者の皆さんに提供する情報は、手短にいうと、12歳の年にはじめてゴルフと出会い、それを生涯の仕事にしたいと瞬間的に思ったときから自分が努力し、培ってきた知識を、いわばふるいにかけて抽出したものである。
アベレージ・ゴルファーはロングショットを上手く打てないと思い込んでいる。私は、アベレージ・ゴルファーは自分の能力を過小評価していると思う。誰もがフルスウィングでナイスショットを打てる肉体的条件を備えている。フルスウィングはショートスウィングを拡大したものに過ぎない。
スウィングには、個々のプレーヤーの個性の一部であるタッチや癖がついて回るが、偉大なプレーヤーの中で、ボールを叩く際に、われわれがここで強調するスウィングの基本を取り入れてない人物は一人もいない。基本に忠実でなかったら、偉大なプレーヤーになれるはずはない。
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私の見るところ、ゴルフの基本は4つのグループに分類できる。つまり、①グリップ、②スタンスとアドレスの姿勢、③アドレスからトップへ至るスウイングの前半、④ダウンスウィングが始まってからフォロースルー終了までのスウィングの後半、の4点に関する様々な基本である。
良いゴルフは正しいグリップから始まる。プロゴルファーが見事なグリップを賞賛するのは、グリップ自体が「静物」などでなく、実はゴルフスウィングというアクションの鼓動そのものなのだということを知っているからにほかならない。
左手の甲をターゲットに向けて、クラブを左手に収める。そのとき肝心なことは、①グリップを左手のひらの肉趾の下の部分にあてがう。②シャフトが同時に左人指し指の第一関節の上にきていること、の2点に留意する。
右手はシャフトが四本指のつけ根の部分にくるような形で、クラブをおく。シャフトは決して手のひらに置いてはならない。右手のグリップはいわゆる”フィンガーグリップ”にする。クラブをもっとも強く握る指は2本、中指と薬指である。
ベン・ホーガン『モダン・ゴルフ』より
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5番アイアンで普通のショットをする場合、両足の幅は肩幅と同じでよい。そして、さらにロフトのあるクラブで打つ場合は、肩幅より少し狭くし、ロングアイアンやウッドで打つ場合は肩幅より少し広くする。
私はゴルフを初めた初期のころから、正しいスタンスはただの一つ、つまり、右足を飛球線に対して直角にして、左足を左方向に4分に1回転させたもの、と信じてきた。こうするとクラブがボールを捉える際、プレーヤーの体は左足が向いている方向に楽に回転できる位置にくる。
スウィング中、2本の腕のうちの一方は常にまっすぐである。つまり、十分に伸びていなければならない。クラブが最大限の弧を描いて走るためには、一方の腕は終始まっすぐに伸びていなければならない。
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バックスウィングを正しくおこなえば、脚、腰、肩、腕、そして手はトップでそれぞれ正しい位置に収まり、相関関係を維持しながら動くことによって、力強く協調し合う動きの中でダウンスウィングのクライマックス、つまりインパクトに向かう。
ワッグルでクラブを後ろに動かすとき、ゴルファーは実際にスウィングするクラブがとおる軌道に体を慣らす。そしてクラブを前方にワッグルするときには、クラブフェースが正しい軌道で、スクエアにインパクトに入るように調整するのである。
ワッグルの利点を最大限に利用すれば、これからやろうとしているスウィングの事実上のリハーサルができる。過去において私は、まだテークバックを初めていないにも関わらず、イメージどおりのショットをすでに打ち終えた感じをはっきりと味わったものである。
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バックスウィングでは、手は腕が後ろに向かう一瞬先に動いて、クラブを後ろに引き始める。腕は、肩が回り始める何分の1秒か前に動き出す。練習でこの感じとリズムがつかめると、手、腕、肩の各部はこの微妙なタイミングに基づく動きに順応できる。
バックスウィングを始める際、肩の動きに引かれるようにして腰が回り始めるまで、腰の動きを押さえておくこと。腰の回転が大きすぎると、腰と肩の間に張りが作れない。張力が十分に蓄積されていれば、それがダウンスウィングを開始する手立てになる。
スウィングプレーンとは、ボールと肩をつなぐ線によって形成される角度のことで、肩は同じ角度を保ったプレーン(面)上で回転する。腕とクラブは、後ろに向かう際に、同じ傾斜面に沿って動き、常にこのプレーンの下になくてはならない。
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ダウンスウィングは腰を左に回すことから始まる。肩と腕と手は、この順序で、それぞれの力をリリースする。この連鎖運動で生まれる素晴らしいスピードが、クラブをフォロースルーのフィニィッシュまで、一気に振り抜くことを可能にする。
私はバックスウイングで、プレーンをどの程度忠実に守っているかという点を、常にチェックしている。もし守られていなかったら、そのスウイングは正しく組み立てられたものではなく、プレッシャーがかかったときに同じ軌道で反復できない。
ダウンスウィングで、体が左に動いて右肩が下がると、プレーン面は別の位置に動く。横軸はもはやショットの飛行線に対して平行ではなく、ターゲットよりわずかに右を指す。だから、正しいスウィングのプレーンを守れば、必然的にインサイドから打たなければならなくなる。
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腰からダウンスウィングを始めるだけで、アベレージ・ゴルファーは、スウィングとショットばかりでなく、スコアまでが信じられないような変化を遂げることになる。
インパクトでは、左手の甲はターゲットに向かっている。手首の骨もターゲットに向かっており、クラブフェースがボールにコンタクトする瞬間に前方に突き出て、手のほかのどの位置よりもターゲットに近い位置にきている。
インパクトではなく、インパクト直後の両腕が完全に真っ直ぐに伸びた時点で、クラブヘッドは最高のスピードに達する。スウィングの完了時に、ベルトのバックルは、必ずターゲットの左を向いている。ダウンスウィングでは、腰が初めから終わりまで肩をリードする。
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私は1946年までは自分のゲームに自信を持つことができなかった。ラウンドするまでは、果たしてその日のスコアが69になるのか、あるいは79になるのか、皆目見当がつかなかった。私は、自分のゲームがある朝突然、駄目になってしまうような気がしてならなかった。
1946年になって、私の心境は突然変化した。突然調子を乱すのではないかと心配する理由など何もない、と心底から思えるようになったのだ。私はすべてのことを野心的に完璧におこなおうとすることは、可能でも賢明でもなく必要ですらないと悟った
私が身につけねばならなかったのは、体の基礎的な動きであり、こうした動きは基本的に意識してコントロールできるから、その日調子が最高でなくとも、自分はきちんとしたプレーができると気づいた。私のショットは以前よりはるかに高い安定性のレベルに達した。