瀕死の双六問屋(忌野清志郎)

『瀕死の双六問屋』 忌野清志郎 2012年02月 新人物往来社
 
 
   
 
 
 

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世界に平和がやってくる感じだ。俺は本当にラッキーな男だ。こんなCDに出会えるなんてな。君たちも音楽を聴いて、そんなことを感じたことがあるだろう?自分の気に入った音楽にめぐり会えるなんてな。
 

みんなが聴いているからとか、そんな理由でCDを買うなんて、つまらないぜ。他人と趣味が同じなんてつまらないぜ。人と同じじゃ、どんなに大志を抱いていても一般人の中にうずもれちまうだけさ。
 

俺はこの日本に生まれて、ずっとこの国で育ってきた。日本国籍を持っていて国民年金も払っている。脱税もしていない。話すのも考えるのも日本語だ。日本文化に敬意を持っている。俺のすきなロックやブルースを歌ってもいいんだろうな?
 
 
 
 

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勝負をしない奴には勝ちも負けもないと思ってるんだろう?でもそれは間違いだ。せっかくのダイヤモンドで勝負できない奴はもう負けてるんだよ。田舎に帰っておとなしく暮らしたほうがいい。
 

もしも自分の心の中に信念というものがあるのなら、どんな相手にも立ち向かえるはずだ。相手の事情や相手の考えなんかを越えて説得できるはずだ。しっかりしてくれよ。
 

また一つ夢が終わった。こうしていつも夢を実現できたと思ったら、その夢が終わっていくんだ。さあ、また出発だといって、何十回目かの最初の一歩を踏み出すことになる。それが人生だ。いちいちめげてはいられないぜ。
 
 
 
 

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ブルースを忘れない方がいい。テクノだのラップだのロックだのR&Bだのと言ってみたところでブルースの呪術から逃れられはしない。すべての音楽にブルースがインプットされている。
 

君が日常において何をしようと自由だ。でもブルースを忘れないで欲しいんだ。なぜ俺が今さらこんなことを強力に言っているのかというと、この世界が縮こまって、つまらないものになってるように感じるからだ。まるで誰かに飼われているみたいだ。
 

感情のままに生きるにはリスクがかかる。しかし、それは誰にでもできるもんじゃない。選ばれた人間にしかできないんだ。そして選ばれるためには勇気と努力が必要さ。
 
 
 
 

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「ある日、オーティス・レディングがアラバマのマッスルショールズのスタジオにデモ・テープを録りにきた。僕は”水道が出しっぱなしだ”っていう曲を提供した。僕のその曲をオーティスはすごくかっこよくしたんだ(ダン・ペン)」。
 

君は水道を出しっぱなしにして行ってしまった。蛇口を開けっぱなしにしたまま。それ以来、水道は流れっぱなしだ。そうさ、僕の目からだよ、つまり、涙が止まらないってことさ。
 

君は僕の涙を出しっぱなしにして去って行ってしまった、。あの日からずっとこの涙は止まらないんだ。この涙を止めに帰ってきてくれよ。ずっと待ってる。
 
 
 
 

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「雨を見たかい?」って何を言ってんだい?雨なんか昨日も降ったし、週に一度は降るじゃないのさ。でも「雨をみたかい?」なんて、まるで詩人みたいだな。ロックン・ロールってかっこいいな。
 

「雨を見たかい?」を聴いてから、僕は実にしっくりしてきたんだ。乾燥した砂ぼこりの田舎町で雨を待ちこがれてる感じ。この感じは、我々現代人のフィーリングじゃないのか。
 

誰も僕の歌を聴いてくれなかったときも、ずっとどうでもいいと思っていたのさ。誰が聴いてくれなくたって、自分が感じたことを歌にしたんだ。なにしろ、それしかできなかったからね。
 
 
 
 

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歌のバッキングをするときはコードを間違えないように、フレーズを弾くときはフレットを間違えないように注意してるんだ。それで精いっぱいだよ。あとは僕の生まれながらのリズムを信じるしかない。
 

「才能のない奴が大学にいくのさ」って高校生の俺は思っていた。「才能のある奴は大学なんか受験しないんだ」ってね。自分がやりたいことをオヤジになる前に始めなくちゃ、一生が台無しだって。
 

政治家も全員インチキ野郎なんだ。国民のためなんて嘘っぱちさ。自分一人だって生きていくのは大変なんだぜ。それなのに国民のメンドーを見るなんて、バカかインチキ野郎の言うことさ。
 
 
 
 

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この国の憲法9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか?戦争を放棄して世界の平和のためにがんばるって言ってるんだぜ。俺たちはジョン・レノンみたいじゃないか。
 

「くよくよすんなよ」ボブ・ディランが古びたラジオで歌っている。どっちにするかなんて考えるなよ、大丈夫だから。君にはやりたいことがあるんだろう?そっちの道を選んだほうがいい、大丈夫だよ。
 

美空ひばり、真っ赤な太陽、作、浜口庫之助。素晴らしい曲である。これこそ日本のR&Bと言える名曲だ。いつか歌ってみたいものだ。