結果を出すリーダーはみな非情である(富山和彦)

『結果を出すリーダーはみな非情である』 富山和彦 2012年10月25日 ダイヤモンド社
 

 
 
 

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いつの世も、時代の転換点においては若い人が既存のルールをひっくり返し、新たな仕組みを構築していく。時代を遡れば明治維新の三傑と言われた薩摩の西郷隆盛、大久保利通、長州の桂小五郎も藩内では課長ぐらいの立場で改革を主導していた。
 

ミドルマネジメントになったら社長になったつもりで判断し、行動しておかないと、将来社長になったときに何も決められなくなってしまう。他人に責任転嫁して過ごすのか、すべて自分で引き受けてストレス耐性を高めるのか。
 

イノベーションを起こすこと以外に成長のドライバーがなくなった今の日本で、失敗に不寛容な企業、失敗した経験がないリーダーは、極めて競争力が低い。
 
 
 
 

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今の時代に日本企業が本当に必要としている中間管理職は、トップリーダーと同じ発想で考えるミドルリーダーとしての課長や部長である。「管理職」というより「経営職」と呼んだ方がいいかもしれない。
 

生涯雇用型の日本企業は、それ自体が一つの共同体的な社会システムを構成している。ある意味、戦後、古い村落共同体が崩落するなかで、会社がその受け皿となって、カイシャという新たなムラが形成されたと言ってもいい。
 

「絶対に安全」なことを根拠にすべきではないし、「絶対に危険」だという根拠によるべきではない。いずれもその考え方自体が、思考停止を招来する極めて危険なものになってしまう。
 
 
 
 

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多角化企業が多い電機業界などを中心に叫ばれてきた「選択と集中」という言葉がある。本来は「捨象と集中」でなければならないはずだ。捨てた後、残したものに集中する、ということである。
 

情理と合理の狭間で悩む訓練は、若い時からやっておかないと、トップリーダーなってから突然身に付くものではない。むしろ、いきなり対峙する情理と合理の軋轢の巨大さ、溝の深さに圧倒され、ストレスに押しつぶされてしまう。
 

日本の家電メーカーが赤字続きのテレビ事業から撤退できない背景には、それは、もちろんサンクコスト(埋没費用)の問題もあるけれど、サンクタイムの問題の方が心理的なハードルはより高い。
 
 
 
 

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企業経営において的確な戦略を立案するうえで最も大事なことは、「経済構造」を理解することである。ここでいう経済構造とは、そのビジネスは儲かるか、儲からないかを決定している最も大きな要因は何か、ということだ。
 

航空業界であれば、固定費が非常に大きいので、儲かる儲からないを決定する一番の要因は稼働率だ。稼働率が経済構造を圧倒的に支配している。
 

JALは、路線、飛行機、人員という過剰固定費の約3割を思いきって大削減し、さらには稲盛会長が導入したアメーバ経営で個別路線収支を厳格化したことで、世界で最も高収益な航空会社になっている。
 
 
 
 

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例えば半導体業界は、経済構造的には工程全体としての歩留りをいち早く上げる能力、すなわちプロセス・エンジニアリング力がメーカーの競争力を決めていた。日本製造業お得意の改善力、工程間のすり合わせ力がものをいった。
 

こうした改善の積み重ねは、各工程にブレークダウンすると、結局、個々の製造装置の改善につながる。半導体メーカーから、半導体製造装置メーカーにノウハウを含めた製造技術が移転し、工程そのものに差別化要素がなくなった。
 

競争のメカニズムは「生産技術の競争」から、DRAMの価格変動をにらみつつ、いかなるタイミングでどれだけの投資を集中的にやるかという「意思決定のクオリティを問われるゲーム」に変わったが、日本のメーカーは対応できなかった。
 
 
 
 

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本来、戦略的意思決定というのは、何を優先させるか、あるいは右か左のどちらに進むかという議論であり、何かを捨てなければならない。常に引き算の理論、「あれかこれか」の問題だ。
 

航空会社が整備人員を大幅に削減しなければならないとする。でも、ベテランの整備の人は現場で重要な仕事をしている。この人たちがいなくなると整備は大変だ、作業効率は下がる、そういう声が課長クラスからでる。
 

B747を全部捨てる前提で考えたらどうか。経年機はすべて売って新しい機材に入れ替えた場合、ベテラン整備士がいなければ作業効率は落ちるのか。社長のような課長はそういうふうに考える。これが引き算の戦略的思考である。
 
 
 
 

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現代は不確実性を繰り返す危機の時代、そして、グローバリゼーションがさらに進展したフル・グローバリゼーション(世界のあらゆる場所で開発され、作られ、売られ、イノベーションが起こる)時代になっている。
 

新興国は後進市場というより、むしろ先端的な競争市場であり、そこで勝ち抜く戦略やビジネスモデルを、日本や先進国市場にフィードバックするリバース・イノベーション力も問われる。ローカル市場を見下すマインドがあると絶対に勝てない。
 

ヨーロッパでは売上高数十億から百億円程度の企業でも、CEOはアメリカ人、COOはスペイン人、CFOはフランス人、そして本社はスイスみたいな会社はざらにある。それこそが、グローバル&アウェイ型の中堅企業である。