スターバックス再生物語(ハワード・シュルツ)

『スターバックス再生物語』 ハワード・シュルツ+ジョアン・ゴードン 月沢李歌子(訳 2011年04月 徳間書店
 
 
 

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わたしはポケットに手を入れ鍵を引っ張り出した。「いまでも(一号店の)正面玄関の鍵を持っているんだよ」。2008年1月、多くの人を驚かせてわたしはCEOに復帰した。
 

2008年2月のある日、米国スターバックスは国内の7100店舗全部を一時的に封鎖した。入口のドアには次のような知らせが貼られた。「完璧なエスプレッソをつくるための研修中です」。
 

スターバックスはコーヒーを売るだけの企業ではない。しかし、コーヒーがおいしくなければ、わたしたちの存在意義はなくなる。
 
 
 
 
 
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わたしをさらに落胆させたのは、サンドイッチだけではなかった。(店内に)コーヒーの香りがしなくなったこと、ミルクを泡立て直すようになったこと、背が高すぎるエスプレッソマシンを導入したことだ。
 

短い期間で業績を伸ばし、改善できることをしなければならない。まず13万5千人のバリスタの再教育だ。チームから返ってきた答えが、一日だけ、アメリカの全店舗を(研修のため)閉めるという大胆なものだった。
 

スターバックスの焙煎の専門家チームが、情熱と知識を注ぎ込み、焙煎技術を駆使して、力強く、本格的な、しかしより親しみすいブレンドを完成させた。これは、一号店の名前をとってパイクプレイス・ローストと名づけられた。
 
 
 
 
 
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2008年、特に技術的な遅れは目立っていた。店舗の奥にある黒い機械は、古くて、グラフィックにもマルチメディアにも対応できず、若いパートナーたちはこれがコンピューターだと気がついていないに違いない。
 

つまり、年商100万ドルのスターバックス一店舗よりも、iphone 一台のほうがより多くのアプリケーションを備えていたのである。店内のPOSシステムは、マイクロソフトでさえ1990年代半ばに製造を中止したDOSによって動いていた。
 

店が注文したものが、全て時間通りに配達される確率は35パーセントで、毎日、何千もの店で何かが足りなくなっていた。
 
 
 
 
 
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2008年、スターバックスのパートナーの多くは細部への配慮を失ってしまった。お客様を100万人、店舗を1000店という単位でとらえるだけで、お客様ひとり、パートナーひとり、コーヒー一杯について考えていなかった。
 

わたしは、誰かがスターバックスのライバル会社のカップを持って歩いているのを見ると、それが独立系のカフェのものでも、ファーストフードのチェーン店のものでも、その人がスターバックスに来ないという選択をしたのだと考え、傷つく。
 

一万人が集まるリーダーシップ会議。クリフ(現社長)は演壇にブリーフケースを置くと、黒いノートパソコンを取り出した。大喝采が起こった。店長たちがより良いリソースをどれほど必要としていたか、よりよい仕事をどれほどしたいと願っていたか。
 
 
 
 
 
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コーヒー農家は、適切な支払いを受けられない、あるいは栽培を続けるために借金をして、それに法外に高い利息を要求されるという歴史があった。消費者がコーヒーに払うお金は決して栽培農家には届かず、不当にも仲介者の間で分配されていた。
 

これは、品質に始まり品質に終わるループである。スターバックスがコーヒー農家にプレミアム価格を払うためには、お客様がプレミアム料金を喜んで払ってくれる、農家にはプレミアムなコーヒーをつくってもらう必要がある。
 

そのため、スターバックスは高い品質水準を設け、見返りにスターバックスはあらゆる面で栽培農家を支援している。
 
 
 
 
 
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スターバックスの店舗にはぞれぞれ指紋とも言える特徴がある。地元の多くのカフェと同じように、それぞれが少しづつ違うのである。理由は簡単だ。店に来るお客様と店で働くパートナーが違うのである。
 

成長は戦略ではない。戦術である。規律のない成長を戦略としたために、スターバックスは道を見失ってしまったのだ。過去の過ちはもう繰り返さない。今日、スターバックスは類い希な企業になろうとしている。
 

ある企業は巨大な小売店ネットワークを持っている。また世界中の食料品店で商品を売っている企業もある。少数ながらお客様と豊かな絆を結んでいる企業が存在する。しかしこの三つすべてを行っている企業はスターバックスだけである。