『ゴルフに深く悩んだあなたが最後に読むスウィングの5ヵ条』 永田玄 2012年11月 文藝春秋
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ゴルフの話をする前に肝心なことを心にとめておいていただきたい。「ゴルフはアーチェリーに似ている」。アーチェリーは、まずは背骨をしっかり伸ばして立つ。心を落ち着けて集中し、視線は目標を凝視する。そして呼吸を整える。同じようなことが、実はゴルフにも求められている。
単純なスウィングをくり返しやっていると、あらゆる状況に対応できるようになり、知らぬ間に自信が生まれ、その自信がその先のスウィング(応用編)を作り上げていくのだ。「単純にこそ応用性がある」のだ。
一、まずは「立つ」。一、すべては「捻(ねじ)る」から始まる。一、エンジンは「遠心力」。一、クラブフェイスを「管理」。一、4つの単語が「連動」してスウィングになる。
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対症療法という言葉がある。頭痛の時などにその原因を探るのではなく、とりあえず頭痛薬を飲んで痛みをやりすごすという方法。この対症療法というやつはゴルフには効かない。いや、効かないばかりか症状を悪化させてしまう場合もある。
時にこの方法も効果はあるものの、原因は根治されない。悪いといわれる場所にところかまわず絆創膏を貼っていくようなものだから、しまいにはどこが傷だったのか、治ったのか、悪化したのかそれさえもわからなくなってしまう。
ゴルフでは一夜のみの付け焼き刃は通じないのだ。最低でも半年くらいの時間で問題を解決、修練していく必要がある。なにしろ「ゴルフはアーチェリーに似ている」のだから、たまに出る一発のナイスショットではなく、正確なショットの確立を上げていかなくてはならない。
たとえばスライスを直すには、腰の回転を覚え、遠心力の力を使ったスウィングプレーンの中でヘッドが球に向かって走る(自然なヘッドのターン)ことを教えてあげなければならない。対症療法による指導はスウィングを歪め、複雑にし、かえって上達を妨げるのだ。
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「立つ」ことの重要性にはふたつの意味がある。ひとつは「ゴルフという運動」を支える土台としての「立つ」だ。もうひとつがターゲットに対して正確に照準を合わせる、方向取りという意味での「立つ」だ。
たとえば土台のしっかりしていない砂の上に台座として置かれた大砲の引き金を引いたところで、肝心の球はさして遠くへ飛ばないだろうし、ましてターゲットに正確に着弾するなんてありえない。
ゆっくりとしたバックスウィングに入る。その時、どこに意識を持つか?「骨盤、とりわけ右後ろのポケット、お尻の筋肉の外」なのだ。プロはトップの位置にクラブが挙がる直前まで、お尻の右後ろのポケットのあたりが寸分も動かない。
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クラブは肩の回転(捻転)によって結果として上に移動するのだ。つまり「挙げる」のではなく「挙がる」「挙がってしまう」のだ。
ゴルフはまさにピンポイントを狙う競技。となれば不器用な骨と大きな筋肉を使い、可動域の大きい指や手首などの間接の動きを一定程度抑えたスウィングのほうが再現性も高く、方向性の精度も高くなるのだ。
「ボディターン」という言葉があり「手打ち」という言葉もある。私はこう解釈している。ボディターンは「引く力」で打つことを言い、手打ちとは「押す力」で打つことだと。クラブはトップから引き下ろすのだ。
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プレッシャーの強いホールのティーショットで、不安が募るほど早くボールの行方を目で追いたくなり、頭が早く起き上がり、フォローでヘッドはアウトに出る。もちろん左肘が浮く。ここでは「ヘッドアップ」に加えて「我慢」という言葉を心に刻んでいただきたい。
自信のないクラブでヒットしたボールがどこへ飛んだか、早くボールの行方を見たい、しかしそこは「我慢」。瞬間の我慢ができたなら「クラブは左へ振る」が多少は実現され、スライスの幅は小さくなり、時にはナイスショットが生まれる。
「頭を残す」だけでなく「左へ振り抜く」、そこに「我慢」が必要。いつの日か「我慢」によるナイスショットの記憶が積み重ねられ、「自信」へと変化するはずだ。
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インパクトの形をどうやって作るのか。そればかりを何年も考えてきた。ボールとヘッドがどうしたら毎回同じ角度でコンタクトできるのか。それについていつも考えていた。何故なら、インパクトでボールは飛ぶと思っていたからだ。
インパクトは大事だが、フォローに向かって加速するスウィングこそが安定したインパクトを作る。つまり遠心力の軌道(ガラスの円盤)に乗せてクラブを振るのがもっとも安定したスウィングを維持する方法だと気づいた。
多くのゴルファーの頭の中にあるスウィングのイメージは「上から下」であり「ボールは叩く」だから、ボールにヘッドが衝突した時点が終点で、その先のイメージが乏しい。実は、スウィングはフォローのためにある、そう覚えておきたい。
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三角形を崩さずにテイクバックするというのは「正しいトップの位置」「しっかりとした捻転」「遠心力」「ガラスの円盤」「穏やかな円軌道」など、これまで書いてきた大事なスウィングの要素を実現するのに欠かせない。
始動時からハーフウェイ、いや、最初の50センチを丁寧にしてもらいたい。ここは絶対に崩さずやりたい。この50センチで三角形を崩さずにテイクバックできると、フェイス面が狂わずにオンプレーンにスウィングが始まるので、格段にミート率が上がる。方向性がよくなる。ボールも飛ぶ。
左手の甲はヘッドフェイスの面の向きを感じる触覚だ。だから始動時からシャフトが地面と水平になるあたりまでは丁寧にあげる練習をする。シャフトが地面と平行になった時点でヘッドは少しだけシャットになっているのが理想だ。私はレギュラーに握っているので、その時左手の甲は少しだけ地面に向く。
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スウィングの最後、左肩の先、視線の中には右手の甲がある。「右手の甲を拝む」のだ。これはベン・ホーガンの名言だ。この形にクラブを収めるためにスウィングはあるようにも思える。
アマチュアであるがゆえに出来るゴルフの一つの理想の形が「美しいスウィング」だと断言する。アマチュアであればこそのスタイルを描いてみたい。
なんとか自分を苦しめてきたスウィングの真実のシッポを掴んで白日のもとに引っ張り出し、明らかにしたい。そのエネルギーがなければこの本は書けなかった。