ゴルフに泣かされた夜あなたが心にきざむスコアメイクの具体策

『ゴルフに泣かされた夜あなたが心にきざむスコアメイクの具体策』 永田玄 文芸春秋 2013年11月
 


 
 
 

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「ゴルフは楽しい」という印象は、言ってみるなら日常生活との比較、つまりあえて言えば「日常生活脳」による感性だ。それでは駄目。もしもゴルフが上達したい、良いスコアを出したいと真剣に考えているのなら、ゴルフの当日は「ゴルフ脳」に切り替えねばならない。
 

日常の仕事や生活を司さどる「生活脳」の他に、自分の頭の中に「ゴルフ脳」を想像する。このゴルフ脳とはゴルフのことしか考えない脳のことだ。ゴルフで進歩、上達したいというなら、少なくとも数日前から1日1時間はゴルフのことを集中して考えるゴルフ脳に切り替えねばならない。
 

1日のラウンドで、断片的にはレベルの高い技術をもっているのにスコアが大きく崩れる人、一方でいつもスコアを上手にまとめられる人、そこがゴルフ脳の能力差だ。技術や理論を理解、実践するだけでなく、このゴルフ脳についても考えなければならないようだ。
 
 
 
 

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タイガー・ウッズは試合の4時間以上前には起床し、シャワーを浴びて、軽いジョギングで身体をほぐし、その後入念なストレッチを施し、スタート時間の1時間以上前にはドライビングレンジへ入る。もちろん朝食も消化のことを考えてすでに済ませている。
 

ショートアイアンから始めて(略)そしてドライバー、それからパッティンググリーンへ。肝心なのは移動の時、彼は決して早足にならない。同じ歩調でしっかり歩く。これは、試合に入る前から体内リズムが狂わないように配慮してのことだ。
 

それに比べて、私たちアマチュアゴルファーはいつもバタバタ。クルマでの移動、食事を摂るタイミング、ゴルフ場へ到着する時間、ロッカーで着替えてからティーグラウンドに立つまでの時間の使い方。ほとんど何も意識することなく気がつけばティーグラウンド。
 

アマチュアは普段、生活脳に強く支配されている。だからゴルフ脳への切り替えは難しく意識してゴルフ脳への切り替えをする必要がある。スコアを上手にいつもまとめる人の、朝の時間の使い方を観察するとそれなりの工夫が感じられるはずだ。
 
 
 
 

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ゴルフ当日まで1週間、ある時間割。
まず1週間前、練習場に行く。球数はせいぜい150球。このボールを2時間以上かけて1打1打、丁寧に打つ。大事なのは素振りとルーティン。ヘッドを目標となるスパットに合わせ、その後両足を揃えて立ち、スタンスを決める。その動作を飽きずにやる。
 

月曜日から水曜日までは朝5分、夕刻10分、鏡の前で骨の角度を確認しつつ、シャドウスウィング、あるいは素振りを繰り返す。自宅ではクラブを持たずとも、トップから腰の回転でクラブを引っ張る感覚、左の肘を伸ばしてテイクバックする動作を確認する。
 

最後の2日間はシャドウスウィングを続けながらも少しゴルフへの心構えに集中する。コースをホームページでチェック、使用する番手も考える。プレー当日、表情は柔らかく多少寡黙に。真剣勝負の時、そう考えてこそゴルフの神髄に触れられる。我慢を大切に、1打を大切に。
 
 
 
 

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なぜかボールにヘッドが上手くコンタクトできなかった。「足裏から杭が地面に突き刺さっている」ように立とうと努力した。今までが嘘のように見違えるボールが続いた。今のスタンスはカエルの足裏の吸盤に似ている。この感覚だ。
 

若きプロゴルファーたちの足の動きに暫く前から注目していた。テイクバック時も左脚はもちろんのこと、右脚もほぼ固定されていて動かず、またフォローでもショートアイアン程度ならほとんど蹴られることはない。
 

まず膝に意識を持っていき、その膝で地面を押す。すると力はスネの骨を通じて足へ、足から地面へ。暫くすると靴底を通じて地面の感触が感じられる。やけにしっかりと下半身が地面に吸着したような錯覚に浸る。「カエルの足」だ。
 
 
 
 

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「ここをボギーで収めれば今日のスコアはまとまる」。そんなポイントがゴルフにはある。肝心なところでティーショットを成功させる、1メートルのパットを入れる、難関のパー4を3打目でカップに寄せる。それを実現する力を「ゴルフ力」という。
 

すばらしいドライバーを飛ばす友人がシングルになれない。「ゴルフ力」不足なのだ。技術でなく「なんとしてもパーを取る」「ここはボギーで収めるぞ」という気迫がたりない。「ゴルフ力」とは肝のあたりにある気迫のことだ。
 

ゴルフ力という言葉の中にゴルフのある一面が見える。それは「ゲームを作る能力」とも言える。この言葉を頭の中に置いてゴルフをするだけで、少しスコアがまとまるよう思えた。
 
 
 
 

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その昔ゴルフの上手な先輩から「(略)駄目なんだよ、『いっちょ、やるか!』なんて強気な性格は。ちょいと柳腰でな、風に吹かれて生きていくような、なよなよと少し女性的なくらいの方がいいのよ、ゴルフは」と聞かされた。近頃この言葉が深く染みてくるようになった。 
 

ゴルフはボールを遠くへ飛ばしたくなる競技だから、力みがちになる。しかし飛ばすのには運動エネルギーとしての遠心力を味方にするしかない。それにはタイミングを計るという「我慢」に似た独特の力の使い方が要求される。そこがゴルフの難しさの根源かもしれない。
 

ゴルフで何より必要とされるのは「待つ」あるいは「我慢」だ。シャフトがヘッドを連れて帰ってくるまで待たなければならない、あるいは機会を待つ、相手が崩れるのを待つ、風が止むのを少し待つ、頭が整理されるのを待つ、同伴競技者のプレーを待つ(略)。