『2030年世界はこう変わる』米国国家情報会議編 谷町真珠訳 講談社 2013年4月
序
米国国家情報会議は(世界のトレンドの)中・長期予測のために作られた機関だ。前身は1974年に作られたCIAの内部部門だった。作成する報告は、第一義的にはアメリカ大統領のために作られる。
本書を読むとき留意すべきことは、読む前に全体の構造をしっかりつかむこと。
まえがき、目次は特にしっかり読む。各章の前書き部分(ゴシック体)をまず読んでしまうといい。時間が極度にない大統領に読ませる文章は、すべて、そういうところにエッセンスを詰め込んである。立花隆
2030年までに、中国やインドを含むアジアが世界をリードする最強地域となる。2030年までに、世界中の多くの国々で、社会の主流が貧困層から「中間所得者層」に変化する。
世界中に中間層が劇的に増えることにより先進国の中間層の存在感は薄まる。米国や日本の購買力(割合)は、将来的にはとても小さなものになる。
「個人の力の拡大」
2030年までにイスラム社会に住むさらに多くの女性がソーシャル・メディアを通じて「女性の権利」「男女同権」などの情報交換に参加することになる。保守的なイスラム教社会や政府などは変革を求められる可能性がある。
地元の政治・宗教・文化とグローバル・スタンダードとしての欧米的価値観、この対立する二つの要素をどのように融和させていくかが新興国の主要課題となる。2030年、欧米的な近代国家は主流でなくなっているかもしれない。
長期的には、欧米型の価値観と新興国側の考え方を混成させた「ハイブリッド型」のイデオロギーが生まれるのではないか。こうしたイデオロギーが誕生すれば、世界各国はグローバルレベルでの課題解決や経済活動で協力しやすくなる。
「権力の拡散」
GDP、人口、軍事費、技術投資、の四点からの試算によると、2030年までにアジアの地域としての力は北米と欧州を合わせた力より大きくなる。2020年代のどこかで、中国は米国を抜き世界第一位の経済大国になります。
ゴールドマン・サックスは今後高成長が期待できるバングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、メキシコ、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、韓国、トルコ、ベトナムを「ネクスト・イレブン」と呼んでいる。
2030年の国際社会はこの11ヵ国の国力がEU27ヵ国より大きく、さらにその上に中国とインドが世界のスーパーパワーとして君臨する構図です。国際社会の中枢がすでに非・西欧国に移っています。
「人口構成の変化」
2012年の時点で中央年齢が45歳を超えている「ポスト・成熟社会」は日本とドイツだけですが、2030年までには欧州や東アジアの大半の国がこのポスト・成熟社会となります。
先進国では、労働力の高齢化や出生率の低下の問題に、移民の受け入れが有効な対策です。OECD加盟34ヵ国は現在の水準で移民を受け入れれば労働力の増加が期待できますが、日本を含む6ヵ国は労働力を維持できません。
現在27都市ある人口1千万人を超えるメガシティへの人口流入は続くが、土地不足やインフラの老巧化がさらなる拡大への妨げとなる可能性が高く、メガシティより地価の安い周辺地域が代わって台頭します。
「最も不安な国、日本」
これから先進国では高齢化が進み、社会福祉に対するコストが膨らむ。今後、長期的な経済成長を目指すなら、膨らみ続ける負債を減らす必要がある。特に高齢化は日本とドイツで深刻です。
急速な高齢化と人口減少で、日本が長期的な経済成長を実現させる潜在力は限定的です。例えば、年金暮らしの高齢者1人を労働人口2人で支える社会が到来します。
国際通貨基金(IMF)は日本は「財政上のバランスを長期的に保つ大規模な政策転換を実施すべき」と進言している。短期的には経済成長を犠牲にしないと、膨らむ一方の負債を解決できないとみています。
「失速する中国経済」。
中国は先進国と同様、高齢化の問題に直面する。過去30年、10%を維持してきた実質成長率も2020年に向けて年率5%に落ちつく。経済成長が減速し、国民一人あたりの収入の伸びも減速します。
国民一人あたりの収入が1万5千ドルを上回ると、国内で民主化の動きが活発になるといわれる。中国経済は今後5年以内にこの水準を超える見込みです。民主化は政治的、社会的な混乱を生みます。
2020年中国の国民一人あたり収入は1万7千ドルで、ブラジル、ロシアより低い。G7の平均は6万4千ドルと中国の4倍近い。経済が成長しても、国民が満足を感じられないと、国民の不満が爆発する可能性がある。