『本番に強くなるゴルフ』 倉本昌弘 2009年 ゴルフダイジェスト社
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「心」というのは、OBやバンカーが嫌だとか、曲がるんじゃないかという恐怖心。ピンに寄せたい、カップに入れたいという欲心。難しい状況からやったこともないショットを成功させてやろうという野心などの、ざわつく心のことです。
この「心」が出てきた瞬間に、体は上手く動かなくなります。これは床の上に描かれている30㌢幅の線の上を歩ける人が、10㍍の高さになると歩けなくなるのと同じです。10㍍という制限をつけられた瞬間、恐怖という「心」が出てくる。
10㍍の高さを歩けるようになるためには、普段から、最初は1㍍でも2㍍でもいから、制限をつけて歩くという練習をしておく必要があるのです。
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簡単にできるのは、3球打ったら番手を変える。そして、3球ごとに狙い所を変えるということです。練習場でも番手を変え、狙い所を変える。そういう制限を付けることで、本番でも「心」が表に出にくくなるのです。
プロ、アマに限らず、本番になれば「心」はざわついたり、暴れたりします。だから練習のときには制限をつけ、心が出やすい状態をつくって、それでもやるべきことをやるという訓練をする。
コースに出たら、「心」がなるべく出てこないように、プレショットルーティンを済ませたら速やかに打つようにする。また、時間をかければかけるほど「心」は出やすくなるので、時間をかけずにプレーする。これらが「心」に対する基本的な考え方です。
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強いゴルファーになるためには自分を信じる。まずはそこから始める必要があります。具体的に言うと、常にスウィングを完結させる。フィニッシュを完結させるのです。
なぜ、スウィングが完結できないかというと、ボールに上手く当てたい、真っ直ぐ飛ばしたい、遠くに飛ばしたいという様々な感情に負けているからなのです。その証拠に、誰でも素振りのときはしっかりフィニッシュがとれている。
言い換えるとフィニッシュの取れないひとは「上手く当たらないんじゃないか」「曲がるんじゃないか」と、自分を疑っている。自分信じていないのです。そして、それが強いゴルファーになれない最大の原因だと気づいてください。
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どんなときでもスウィングを完結させる。その結果、曲がった、曲がらないは問題ではありません。どんなに不安や恐怖があっても最後まで振り切る。それが、いろいろな感情に負けない心をつくり、自分を信じる力をつける訓練になるのです。
常に基本に立ち返る。「心」を意識して練習する。「心」がなるべく出てこない技術を選び、ルーティンを大事にする。自分を信じて「心」が出てきてもやるべきスウィングをやりきる。そして、本番では自分のできることだけをやる。
強いと言われない人は、そういうことができていません。言葉にすると、当たり前に聞こえるけれど、強いゴルファーになるためには、それがいちばん大事で、逆に言うとそれしかないのです。
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ワンレバースウイングは、正面から見たときトップでクラブが8時のポジションを指し、フィニッシュでは4時のポジションに収まる手首を使わないスウィング。ツーレバースウイングは、トップで9時、フィニッシュで3時のポジションを指す、手首を少し使うスィングです。
ワンレバー(レバー=てこ)は、首の付け根だけを支点にスウィングするのでワンレバー、ツーレバーは首の付け根と手首の二つを支点にスウィングするのでツーレバーと呼ばれています。このふたつのスウィングは、全てのスウィングの基本となります。
アマチュアゴルファーの多くは、小さなスウィングの練習をすることを軽視しがちですが、このふたつのスウィングが確実にできるようになると、ショットがよくなるだけでなく、アプローチも上手くなります。
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私たちがアマチュアにワンレバーを教えるとき、バックスウィングとダウンスウィングは等速で振りましょうと教えます。でも、本当は等速ではない。自分の意識では等速で動かす感じでいいけれど、実際は振り子のリズムで自然な加速をしていることが大切なのです。
ワンレバーのように小さな動きの中で、そういうリズム、テンポ、タイミング、加速感をつかむのは難しいかもしれません。しかし、難しいからこそ、それを求めることで大きなスウイングがとてもやさしくなるのです。
このふたつのスウィングは、できるようになればいいというものではありません。普段の練習、ラウンド前や後など、ゴルフを続ける限りずっと続けて欲しいのです。それが基本を大切にするということであり、結果としてゴルフの上達を早めるということを忘れないで下さい。
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バックスウィングで手がトップに上がりきって止まる寸前、上半身とクラブをトップの位置に置いたまま、左かかとを踏み込む。すると、その瞬間に体はねじれ、その動きによって上半身とクラブはダウンスウィング方向に向かって動き出すのです。
この先行動作によってダウンスウィングに入るわけですが、ダウンでいちばん大切なのは「クラブが落ちる」感覚を持っているかどうか、ということです。ダウンではクラブが重力によってポンと落ちるまで待っている、そういう感覚が必要です。
ダウンでクラブが落ちる感覚を意識したら、インパクトまで自分ができることは、もう何もありません。それでも、手先で何かをしてしまうという人は、ボールを隠して打ってみるといい。ちゃんとアドレスして、普通にスィングすればボールが見えなくても、芯に当たらないとおかしいのです。
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フォローを意識して、練習するのはとてもいいことです。正しいフォローの位置を確認しておき、実際に球を打つときには、そのポジションまでしっかり動くように意識する。
インパクトからフォローにかけて通常よりもインサイドアウトの軌道で、ハンドルを左に切るようにして右肩を高く使えばフック。逆にインパクトからフォローにかけて通常よりもアウトサイドインの軌道で、ハンドルを右に切るようにして右肩を低く使えばスライスになります。
また、通常よりも目線を低くして、いつもよりヘッドの抜ける位置を低くイメージすれば、低い球。目線を高くして、いつもよりヘッドの抜ける位置を高くイメージすれば、高い球になります。
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逃げ切るということは、非常に難しいことです。追いかけるよりもずっと難しい。では、そのときどうしていたのかというと、目の前の一打一打をクリアにして、相手をあんまり見なかっただけなのです。トップを行っている者が誰にも影響されないで着実にそれを実行すると、追いかける方は焦る。だから逃げ切れたのです。
たとえば、最終日にタイガー・ウッズがリードしていると、追いかけるほうは「タイガーは2打リードしている。きっとパー5で2つはバーディを取ってくるだろうから、自分は最低4つ伸ばさないといけない」などと予想する。
そうすると流れが悪くなってスコアを崩す。終わってみたらタイガーはパープレーで、無理をすることはなかったということも多い。このように、自分でコントロールできないものに囚われてはいけない。そこに気づくことはとても大切なことです。