アップル vs. グーグル

『アップル vs. グーグル どちらが世界を支配するのか』 フレッド・ボーゲルスタイン 依田卓巳/訳 2013年12月 新潮社
 
 
 

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アップルの市場支配がこれほどの速さで広範に崩されるのを見るのは、ジョブスにとっても、アップルにとってもつらかった。それだけではない。アンドロイドの企業連合がズルをして成功したとジョブズは思っていたし、幹部は今でも思っている。
 

グーグルはアップルのソフトウェアを盗んでアンドロイドを作った。サムソンは、アップルのデザインをコピーして、大ヒット製品のギャラクシーを作った、と。アップルはグーグルに裏切られたと感じているのだ。
 

アップルは機器を作って儲け、グーグルはオンライン広告で儲けているが、多くの人が見落としていたのは、両社ともに新しい種類の「コンテンツ配信エンジン」になろうとしていることだ。
 
 
 
 

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2007年1月、世界に初めてiPhoneが披露される。スティーブ・ジョブズが伝説と見なされるのは、主要な製品デモで失敗をしないからでもある。ところが、ジョブスがこれほど準備不足で本番に臨んだことはなかった。
 

ジョブズはiPhoneにOS Xの修正バージョンを使いたがったが、OS Xのような巨大なプログラムを携帯電話のチップにのせた経験は誰にもなかった。それまで主流の消費者製品に「静電式」タッチスクリーンを取り入れた例もなかった。
 

ジョブズは言う。キーボードをつけたら、すべてのアプリで使うわけでもないキーが固定される。しかも、画面という不動産の半分がそれで食われてしまう。
 
 
 
 

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グーグルは1998年スタンフォード大学の一室から始まって、15年の間に世界で最重要かつ最強の企業へと成長した。今やマウンテンビューの65の建物に入り、街にいる約5万5千人の労働者の三分の一を雇用している。
 

2005年には何十もの技術プロジェクトが同時進行していた。ほんのひと握りの最高幹部しか知らないプロジェクトもあり、なかでもいちばん野心的で極秘なのがグーグル独自のスマートフォンを生み出すアンドロイド・プロジェクトだった。
 

アンドロイド・プロジェクトは多くの点で、グーグルの熱気あふれる混沌とした文化を反映している。CEOのラリー・ペイジがいちばん腹をたてるのは、大きく考えないこと、あるアイデアでどれだけ儲けられるかを言い立てることだ。
 
 
 
 

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ジョブスが華々しくiPhoneを初公開した。エンジニアの反応はすばやく、直感的なものだった。「一消費者としてはぶっ飛んだよ。すぐに一台欲しいと思った。でも、グーグルのエンジニアとしては、これで最初からやり直しだ、と思ったね」。
 

グーグルのアンドロイドチームにとってiPhoneは腹にきつい蹴りを入れられたようなものだった。「自分たちの手元にあるものが突然、なんというか、90年代に思えてきた。ちがいはひと目でわかるという感じだったよ」。
 

アンドロイドチームが開発していた暗号名<スーナー>という電話は、見た目がひどかった。ブラックベリーと似ていて、従来型のキーボードとタッチ式でない小さな画面がついていた。アンドロイドチームは開発初期段階のタッチスクリーン付き電話<ドリーム>に目標を設定し直した。
 
 
 
 

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2007年グーグルはあいまいな発表を行った。作業が順調に進んでいること、名称が「アンドロイド」になること、携帯電話メーカーのHTCが1年以内にアンドロイドを搭載した電話を発売すること。
 

一週間後にビデオを公開した。その端末にはタッチスクリーンの他に、高速の3G接続、<クエイク>のようなゲームが楽しめるグラフィック機能、グーグルマップもストリートビューもデスクトップと同じように動いた。
 

スティーブ・ジョブズはそのデモを見て怒りを爆発させた。「ビデオを見たか?どこもかしこもうちのくそ模造品だ」。電話でわめき立てた。
 
 
 
 

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シリコンバレーに本物の「最初」はほとんどないと彼らは考える。全てのイノベーションは他者の肩の上に築かれる。トランジスタや集積回路がなければマイクロプロセッサーは現れなかった。マイクロプロセッサーがなければPCは現れていない。
 

2010年、アンドロイド携帯は交換式バッテリー、アップグレード可能なメモリ、柔軟にカスタマイズできるソフトウェアを搭載し、ほとんどの機種はiPhoneより画面が大きかった。
 

アンドロイドはアップルの存在そのものを脅かしていた。アップルはより高い価格で機器を売り、儲けを新製品の開発にあてる。グーグルは機器のコストに関係なく、まずプラットフォームを育てる。儲けは広告から得る。
 
 
 
 

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アンドロイドをあらゆる場所に行き渡らせるグーグルの戦略に対して、ジョブズのとった策は、シンプルで斬新だった。iPadの発表である。「僕らは答えを出せたと思う」ipadの写真がスライドのiPhoneとMacBooのあいだに落ちて、ぴたりと収まった。
 

メディア業界が排除するのでなく加わりたいと思う未来像を示したのが、iPhoneでなくiPadだった。コンテンツ会社の経営陣は、iPhoneでは画面が小さすぎると考えていたのだ。顧客がスマートフォンで映画を見るところが想像できなかったのだ。
 

書籍、雑誌、新聞、映画、アプリストアから配信されるテレビ番組、ケーブルテレビの生放送、さらにはアマゾンやネットフリックス、HULU、HBOなどのオンラインサービスまで、iPadはあらゆるコンテンツを詰め込んだ新しいメディア消費のデバイスになった。
 
 
 
 

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iPadはジョブズが大手メディア企業を説得し、ありとあらゆる本や新聞、雑誌、映画、テレビ番組を購入できるようにして初めて大ヒット製品になった。
 

何年もの間、雑誌社や新聞社はオンラインコンテンツの有料化を試みてことごとく失敗していた。めったに注目されないジョブズの功績のひとつは、その問題を解決するシステムをiTunesの裏側に作っていたところだ。
 

ケビン・スペイシー主演『ハウス・オブ・カーズ』はハリウッドでなく、ロスガトスに本社があるテクノロジー企業が作り、放送インフラを使わず配信している。これを見るには、インターネットに接続して、ネットフリックスに加入するしかない。
 

これらは、この五年間にスマートフォンとタブレットが爆発的に普及したおかげで加速したことだ。スマートフォンとタブレットの普及でメディアを消費する人の数が跳ね上がり、コンテンツを視聴できる時間も場所も激増した。