小さい会社を強い会社に変える方法(大野尚)

『小さい会社を強い会社に変える方法』 大野尚 2011年2月 現代書林
 
 
小さな会社のための『マネジメント・エッセンシャル』日本版的な本です。あたりまえのことがシンプルに書いてある。小さな会社だからこそ、個人の力に頼るのでなく効率よく働く仕組みをつくる。他がやってないが、自分の会社ならできる小さな “トライ” がイノベーションにつながる。もちろんすべて、問題を深く掘り下げ、理解してやらなければならないことです。
 

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2010年1月、JALに会社更生法が適用されました。ANAとともに国内シェアを二分し、長らく日本の空を支配してきたガリバー企業が倒産したのです。新規参入したスカイマークが、JALとANA、二つの強者に押しつぶされそうになりながら、どれほど辛酸をなめてきたか、私は感慨無量でこのニュースを聞きました。
 

スカイマークが設立された1990年後半あたりから、強者>弱者、という図式が揺らぎ始めました。さまざまな規制緩和や流通革命、企業活動のグローバル化、ニーズの多様化、インターネットの急速な普及などによって、大きいことが必ずしも”強み”にはならないという現象があちこちで起きてきました。
 

航空会社コストは、燃料費は空港の発着料、人件費なども含めた1座席の1㎞あたりの費用(ユニットコスト)で比較します。スカイマークのユニットコストは約7.5円、ANAは15円、JALは再建計画による達成目標(2013年)でも、まだ12円台です。スカイマークが、JALやANAよりもはるかに強いことがわかります。
 

このような差が生まれる理由の一つは、労働生産性にあります。たとえば、JALやANAでは客室乗務員の仕事は昔ながらの “スチュワーデス” であるのに対し、スカイマークは、空港内での搭乗サービスも、フライトのない客室乗務員によって行われます。厳密に言うと、グランドホステスとスチュワーデスが一緒です。
 
 
 
 

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今、10時間かけている仕事は、8時間でできる仕事かもしれません。たぶん仕組みを変えればできるでしょう。にもかかわらず、1年も2年も同じペースで仕事をこなしているとしたら、間違いなく効率が悪いといえます。
 

というのも中小の場合は、良くも悪くも個人の力に頼りがちで、「組織」「仕組み」の発想が希薄になりがちです。どんな優れた社員も一人や二人では収益性の高い組織はつくれません。(略)そして、個人の力に頼るほど、逆に全体のスピード性や機動性、パフォーマンスは落ちてきます。
 

人は組織の中で働き、組織の中でさらに能力を発揮しなければなりません。組織の中でみんなが「最小のエネルギーで最大の成果を上げる」ようになったとき、つまり効率よく働く仕組みが会社を動かし始めたとき、はじめて収益性の高い「強い会社」になれるのです。
 
 
 
 

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中小のイノベーションは、「できること、まだやってないことをする」です。「なんだ、そんなことか」と思った人がいるかもしれません。クライアントに最初にそのことを話すと、「そんなことなら何もコンサルタントに依頼する必要はない」とでも言いたそうな顔をされます。
 

とかく私たちは会社を立て直したり、飛躍させたりするには、何か特別なことをしなければならないと考えがちです。「成功するために何か思い切った、誰にもできないような作戦をたてなければならない」と多くの人が錯覚しています。
 

別の言い方をすれば、できないことに挑戦する “チャレンジ” ではなく、できることを確実に実行するのが、中小企業のイノベーションには一番必要です。”チャレンジ” には壁から飛び下りるような勇気がいりますが、”トライ” に必要なのはやり抜く覚悟です。 
 
 
 
 

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人脈の中から得られる最も貴重なもの。それは自分と違う考え方や、自分とは異なるものの見方です。ときにはそれらが自分になかったアイデアをもたらし、自分の間違いを指摘してくれる忠告や助言にもなります。
 

人脈は友人関係と違って、深く付き合う必要はありません。何か相談したいとき、知恵を借りたいときに気軽に会ってもらえる程度の、近すぎず遠すぎない関係が長続きします。別の言い方をすれば、相談したり知恵を借りたりしたら、必ずお礼の手紙を書くような節度ある間柄です。
 

人に信用され、信頼されるには二つのことが重要です。そして、大企業の経営者に会ってみると、さすがに大勢の中から選ばれてトップになったことだけのことはあって、みなさんしっかりその二つを備えています。
相手の話を一生懸命に聞く。自分のことを素直に話す。
 
 
 
 

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(知恵の)材料は多いに越したことはありません。ビジネス環境が不安定で、どんな変化が起こるかわからない時代の経営者は、普段から本をたくさん読み、人脈づくりも積極的に行って「知恵」のベースを大きく厚くすることに心がけるべきです。いわば、自分のシンクタンクを拡充するのです。
 

知恵・工夫が生まれるのは、何か問題が生じたときです。あるいは壁にぶつかったときです。何を言いたいのか、もうおわかりと思います。「うまくいっている」というぬるま湯の中にいる間は、知恵・工夫が出てこない。つまり、知恵・工夫を出せる人間は、何時も危機感を持っています。
 

問題の原因を探り、その原因の原因を探る。そのようにして問題を掘り下げていくと、必ず解決すべき問題にぶつかります。私たちが知恵や工夫を発揮するのは、問題を掘り下げて出てきた課題に対してです。
 
 
 
 

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「自ら働きたくなる気持ち」は何のために働くかという目的がわかり、そこに価値や意義、喜びを見出したときに、自然とわいてくるものです。たとえば「社是・社訓」は、会社の目的、ミッションを社員に示し、働くことの価値や意義、喜びを社員が感じられるようにするための一種の仕組みです。
 

そのとき注意してほしいことは、一つは、目的は人の心に訴えるもので、数値的な目標は目的にはならないということ。二つ目は、わかりやすく説明することです。社員がそれを実際の仕事の中で、イメージし感じとれるように、上司が体験談も含めていかに納得させられるかがポイントです。
 

「○○社らしさを忘れずに」。この “らしさ” は、お客さんを大切に思う気持や、商品に対する自信であり、世の中に役立っている誇りだったりします。創業時代の社員にはこれだけでわかったものも、今の社員にはピンときません。
 

「社是・社訓」も、オフィスや工場の壁に貼られたままでは、ただの風景です。感動がなければ「社是・社訓」は生きてきません。「いのち」を吹き込むのは経営者の役目です。自らの「ビジョン」に基ずいた実践こそ、社員への大いなる指標となるはずです。
 
 
 
 

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マネージメントで一番難しいのは「理解させ、実行させる」ことです。目標を説明し、「わかったな、では行動に移れ」「この目標を達成するめに頑張ろう」。これでできるのは一部の優秀な社員であり、できない社員のほうが多い。「理解させ、実行させる」ポイントは具体性です。
 

社員10人の支店で売上目標1億円。去年より2000万円の上乗せなら、「一人1000万円が目標で、去年より200万余計に頑張ってほしい。12ヶ月で割れば月17万弱のアップだ」。さらに業種によっては、それを日にちで割り「1日8000円増やす」。数字は小さくなるほど、はっきり見えてきます。
 

具体的に目標を示せば、一人ひとりがアクションプランを組み立てだすのです。経験のない社員の場合は、アクションプランも示してやる必要があります。「8000円増やして35000円にするには、最低1日10人のお客さんに「声をかけないと難しいな」。
こういう具体化が長期目標を、現実的行動に落とし込んでいくプロセスです。
 
 
 
 

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マネージメントの上手い上司と下手な上司の一番の違いは、部下の行動を正しく把握できているかどうかです。つまり一人の部下が、今、何のためにどう動いているのか。それを把握していなければ、適切な指導はできません。目標達成が難しくなり、トラブルの発生にも気づけないでしょう。
 

部下の現状を把握し、すばやく指導する。これは中間管理職としてきわめて高い能力を必要としますが、ITを使ったホウレンソウという仕組みがあれば、個人的な能力の問題ではなく、誰でもリアルタイムでの把握、指導が可能になります。
 

部下の報告を受ける際に重要なことは「報告されていること」より、「報告されていないこと」をどこまで察知できるかです。部下からの毎日の報告がされていれば、報告されていない(見えない)ところに気づくでしょう。
 
 
 
 

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ある意味でマネージメントとは、限られた時間をどう効果的に、また有効に使うかということです。仕組み化も時間を節約し、新しい時間を生み出すものです。しかし、仕組み化しても、できた時間を有効に使わなければ、その努力はムダになってしまいます。
 

働いているとされる時間の中にも多大な「怠惰時間」があります。「怠惰時間」には意識的なものと、必然的なものがあり、意識的な怠惰時間はモチベーションアップを図ることで、無意識的な怠惰時間は「仕組み化」で減らすことができます。
 

それには、①仕事の優先順位を決めて本質的な仕事から取り組ませること。②段取りを決めてから仕事にかかる習慣をつけること。③今日の予定は前日に立て、その問題点や障害をあらかじめ考えさせておくこと。この優先順位、段取り、予定の三つが、怠惰時間を少なくするツールです。