How Google Works

『How Google Works』 私たちの働き方とマネジメント エリック・シュミット ジョナサン・ローゼンバーグ 土方奈美[訳] 2014年10月 日本経済新聞出版社
 


 
 
 
 
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いまでは考えられないが、ぼくらがグーグル・マップを始めたときも、すべての道路の写真を含む世界地図をつくるという計画は不可能という見方が大勢を占めていた。過去が未来の参考になるとすれば、こんにちの大胆な賭けは数年も経てばそれほど突飛な試みには思えなくなるだろう。ラリー・ペイジ
 

ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンはグーグルをいくつかのシンプルな原則のもとづいて経営していたが、そのうち最も重要なのが「ユーザーを中心に考える」だった。最高のサービスを生み出せば、お金は後からついてくると信じていたのだ。
 

ラリーの言う「エンジニア」は、従来型の定義に当てはまるような存在ではないのだ。たしかにグーグルのエンジニアはとびきり優秀なプログラマやシステムデザイナーだが、卓越した技術知識に加えて経営にも詳しく、発想力も豊かだ。
 
 
 
 

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マイクロソフトは猛烈にグーグルを攻めてきた。MSNサーチ、ウィンドウズ・ライブ、Bingなどのマイクロソフトのプログラムや、企業買収がそれほどの成功を収められなかったのは、同社のやり方に問題があったのではなく、グーグルの備えが万全だったからだ。
 

私たちは検索エンジンの改良にたゆみなく努力してきた。画像、書籍、ユーチューブ、ショッピングデータなど、新たな情報の集積を見つけるたびに検索に加えてきた。Gメールやグーグル・ドキュメントのような独自のアプリケーションを開発し、すべてウェブベースにした。
 

独自のインフラを飛躍的に改良し、爆発的に増加するオンラインデータや、コンテンツをより早くクロールできるようにした。検索の速度をあげ、またより多くの言語でサービスを提供し、使いやすいようにユーザー・インターフェースを改良した。
 

グーグル・マップの提供を開始し、ローカル情報の精度を高めた。(略)ブラウザなどマイクロソフトが強みを持つ分野にも参入した。グーグル・クロームは登場したその日から、最も高速で安全なブラウザの座に君臨している。
 
 
 
 

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プロダクト開発はより柔軟で、スピードが求められるプロセスになった。劇的に優れたプロダクトを生み出すのに必要なのは巨大な組織ではなく、数えきれないほどの試行錯誤を繰り返すことだ。つまり、成功やプロダクトの優位性を支えるのはスピ―ドなのだ。
 

こんにち多くの企業が採用している経営管理プロセスは、こうした目的を満たすものではない。(略)この伝統的な指揮系統を旨とする構造では、組織の末端から経営陣へとデータが上がっていき、意思決定がなされると今度はそれが逆方向に下がっていく。
 

この方法は意思決定のスピードをあえて遅くするように設計されており、その狙いを十二分に果たしている。企業が経営のスピードをひたすら高めていかなければならないこの時代に、構造がそれを阻(はば)んでいるのだ。
 
 
 
 

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グーグルのエンジニアをはじめとする優秀な人材は(略)多才で、専門性とビジネススキルと想像力を持っている。要するに、少なくとも従来の意味での知識労働者ではないのだ。私たちが「スマート・クリエイティブ」と呼ぶ新種で、インターネットの世紀での成功のカギを握る存在だ。
 

こんにち成功している企業の際立った特色は、最高のプロダクトを生み出し続ける能力だ。それを手に入れる唯一の道は、スマート・クリエイティブを惹きつけ、彼らがとてつもない偉業を成し遂げられるような環境をつくりだすことだ。
 

スマート・クリエイティブは自分の商売道具を使いこなすための高度な専門知識を持っており、経験値も高い。私たちの業界ではコンピューター科学者か、日々コンピュターの画面の背後で起きている魔法の背後にあるシステムの理論や構造を理解している人材ということになる。
 

他の業界では、医師、デザイナー、科学者、映画監督、エンジニア、シェフ、数学者などがスマート・クリエイティブになるかもしれない。実行力に優れ、単にコンセプトを考えるだけでなく、プロトタイプをつくる人間だ。
 
 
 
 

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2002年5月のある金曜日の午後、ラリー・ペイジはグーグルのウェブサイトでいろんな検索語を入力しては、どんな検索結果や広告が表示されるかを見ていた。「フランスの洞窟壁画」と入力すると明らかに洞窟壁画など扱っていないネット通販業者がすらりと並んだ。ラリーは衝撃を受けた。
 

ラリーは気に入らない結果が表示されたウェブページをプリントアウトし、不適切な広告に蛍光マーカーを引いて「この広告はムカつく!」と大書きし、ビリヤード台脇のキッチンの掲示板に貼り出した。それからさっさと家に帰った。誰にも電話やメールをしなかった。
 

週明け、検索エンジニアのジェフ・ディーンが一本のメールを送った。ジェフと数人の仲間はラリーの掲示を見て、広告がムカつくという評価はもっともだと思った。メールはラリーの意見に賛同し、感想を述べただけではなかった。
問題が起きた原因を徹底的に分析し解決策を説明し、仲間と週末にコードを書いた解決策のプロトタイプへのリンクを含めた。
 

要は、検索語に適合する広告の質を評価して「広告適合度スコア」を算出、それに基き広告を特定のウェブサイトに掲載すべきか、する場合はページのどこに表示するかを決定する仕組みだった。「アドワーズ」エンジンの基礎となりそこから数十億ドルのビジネスが誕生した。
 
 
 
 

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スマートクリエイティブにとって、「ダメ」と言われるのはちょっとした死に等しい。「ダメ」は会社がベンチャーらしい活気を失い、企業的になったことのサインだ。「ダメ」が重なるとスマートクリエイティブは尋ねるのを辞め、さっさと出口へ向かうようになる。
 

私たちがよく引用する元コネチカット大学学長のマイケル・ホ-ガンのこんな言葉がある。
 

「『イエス』と言おう。なるべく頻繁にイエスと言うのだ。イエスと言えば、物事が動き出す。イエスと言えば、成長が始まる。イエスは新たな経験につながり、新たな経験は知識と知恵につながる。イエスという姿勢は、この不確実な時代に、前へ進むための手段なのだ」。
 
 
 
 

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イスラエルの戦車司令官は戦闘を開始するとき「突撃!」とは言わない。「アハライ!(ついてこい)」と叫ぶのだ。スマート・クリエイティブのリーダーを目指すなら、この姿勢を学ばなければならない。
 

エリックはあるとき、パロアルトのフェイスブック本社でマーク・ザッカーバーグとミーティングをした。その時点でフェイスブックが大成功をつかもうとしていることは明白だった。
 

二時間ほど話して、午後七時ごろエリックが帰ろうとすると、アシスタントがマークに夕食を運んできて、コンピュータの脇に置いた。マークは机に戻り、仕事を再開した。彼の熱意がどれほどものか、それを見ただけでよくわかった。
 

玄関前に配達された新聞を、毎朝自分で取ってくるCEO。机を拭いてまわる創業者。リーダーはこうした行動を通じて、平等主義の精神を身も持って示す。自分たちはチームであり、必要だがつまらない仕事を免除されるような”エライ”人間はひとりもいないのだ、と。
 
 
 
 

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(技術的アイデアから)誕生するプロダクトは、競合品と比べて本質的に優れている。その差は歴然としていて、マーケティングの努力などしなくても、消費者はすぐにそのプロダクトがほかのどのプロダクトとも違うとわかる。
 

こんにちの(プロダクトの)重要な構成要素は、情報、ネットへの接続性、そしてコンピューティングだ。技術的アイデアを生み出す一つの方法は、新たに入手できるようになった技術やデータを活用し、自らの業界に存在する問題に対する新たな解決策を見いだすことだ。
 

技術的なアイデアを見つけるもう一つの方法は、小さな問題の解決策に注目し、その適用範囲を広げる方法を考えることだ。これはイノベーションの世界では脈々と受け継がれる伝統でもある。新しい技術は原始的な状態で誕生することが多い。
 

蒸気機関は機関車の推進力という”天職”を見いだすはるか以前から、炭鉱から水をくみだす便利な手段として使われていた。マルコーニが売り出した当初のラジオは船と陸との通信手段であり、娯楽手段ではなかった。