トランプ思考(ドナルド・トランプ)

『トランプ思考』ドナルド・トランプ 月谷真紀/訳 2016年07月 株式会社PHP研究所
 


 
 
 
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『ニューヨーク・タイムズ・ブック・レビュー』にスティーヴン・キングによる短編についてのエッセイが掲載されている。

エッセイは、今日の短編小説は「これみよがしで、読者よりも編集者や教師に向けて書かれたもののよう」に感じられるという。鋭い指摘で、人はなぜ物を書くのか、誰を読者として想定するのかを考えさせられた。
 

例えば私は居住用ビルを建てるとき、まず住む人のことを考える。対象となる層を研究する。広告業界だろうと不動産業界だろうと、ビジネスマンなら誰でもそうするだろう。ビルの存在を世の中に知ってもらうには、ビルの販促を手掛けようと考えてくれる人々にもアピールしなければならない。
 

短編小説が読者の啓発ではなく出版を目的として書かれているようだと気づいたキングは、的確な状況分析をしていると思う。いわゆる評論家の歓心を買うつもりで何かをすれば、自分を安売りすることになるし、世間をばかにすることにもなる。
 

自分自身と自分の仕事に嘘をつかないことこそが資産である。資産には守るだけの価値があるのを忘れないでほしい。信念を守り通すのが簡単だとは誰もいわないだろうが、守り通さなければならないと私は信じている。でなければ、あなたのやっていることは何だというのか。
 
 
 
 

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「全体像を見よ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。絵の中の大きなピースを見落としたり無視したり、何も欠けていないというふりができる人には驚いてしまう。ピザを注文して、何切れか抜かれたピザがきたのに、それを完全な一枚と思い込んでいるようなものだ。
 

人生のあらゆる面に目を配ろう。どこが強いのか、どこが弱いのか、欠けているのは何か、全体を向上させるためにあなたには何ができるのか。何をするにせよ、現状に満足してはいけない。自分が与える側であれ、もらう側であれ、50パーセントで十分というふりをするな。
 

世の中の動きの速さを悟ったとき、私は労働時間を倍に増やそうと決心した。大きな犠牲ではない。仕事を愛していたし、昔からハードワーカーだった。これまでの人生で今がいちばん生産性が高い。しかし周囲の環境に追いつくためにこのペースは維持している。
 
 
 
 

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あるものに怖いというレッテルを貼ってしまうと、怖いのではなく気がかりな状況にまで恐怖心が生まれてしまう。例えば、ニューヨークが大規模なテロリスト攻撃を受けたことはよく知られている。誰にとっても気がかりなことだ。しかしそれが根強い恐怖になるのを許したら、テロリストの思うつぼだ。
 

恐怖心への対抗手段はごく簡単、問題解決である。投資や不動産計画や事業経営、あるいはその全部を考えているなら、いずれも個々の思考単位に分解して順序立てて取り組めばよい。ジグソーパズルのようなものだ。全体が見えるまで一つひとつのピースがあてはまる場所を探してやらなければならない。
 

例えば、トランプタワーの建設に取りかかったとき、私はブレッチア・ペルニーケという大理石を使いたかった。美しく希少で高価な石材である。模様が均質でないという特徴もあり、白い斑点や白い筋が入っているのが気になったため、自ら採掘場に出向いて良質な石を確保した。
行動によって懸念を問題解決に変えたわけだ。何もせず、良い石材に当たるかと気をもんでいても埒が明かない。
 
 
 
 

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恐怖心があると物事が実際以上に大きく見える。「恐怖心がオオカミを実際よりも大きくする」というドイツのことわざは本当だ。恐怖心の反対は自信である。自分を信じ、やればできる人間だと思わなければならない一つの理由はここにある。どんな障害、難しい相手に出会っても対処できるのがわかるはずだ。
 

私はビジネスとは問題解決そのものだと信じている。問題に対処し解決する姿勢を身につければ、成功の可能性は大きく広がる。恐怖心をあなたの人生の一隅たりとも忍び込ませてはならない。それは敗北主義であり、ネガティブな感情である。ただちに見つけて消し去ろう。
 

恐怖心を問題解決の姿勢と自信とハードワークに置き換えよう。この方程式を日常の習慣にすれば、あなたは恐怖心に動かされるのではなく、力を握った立場で物事に対処するようになる。これぞ勝利の方程式である。
 
 
 
 

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財務の授業は無味乾燥だ--だが、そう決めつけたものでもない。私は架空のプロジェクトを想定して学んだ原理を頭の中ですぐに応用することで、授業を私なりに面白くして乗り切った。これは、学生の身でありながらすでに実社会で働いていたようなものだ。
 

自分のキャリアを振り返ると、すばらしい教育を受けられたという基礎に加えて、こういう姿勢が成功に大きく寄与したと思う。気づいたのは、私が実際に関わったプロジェクトの中で、個々の要素がどう作用するか、どこにあてはまるかがわかるようになっていたときだ。
 

創造力に恵まれた人は大勢いる。それを役立てられないのは、実行力が伴わないからだ。私は創造力を実行力につなげられる。まずは、基礎を身につけること、そこから創造力で成長することだ。ビジョンと視界の良さの連携はこうして起こる。その結果は見てのお楽しみだ。
 
 
 

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いつ電話しても、誰々が悪い、何々が悪いという言い訳しかしない男がいた。彼は人生で一度もミスをしたことがないのではないか、生まれたその日から何事も自分のせいではないのだから。この男の最大の死角は自分自身だった。
 

私はもうずいぶん長くビジネスの世界にいて、数々の浮き沈みを経験してきたから、視点を問題から解決策に移すのがわりあい早くできる。問題をあまり長くクローズアップしてはいけない。解決策に焦点を当てる。マイナス面を見落とすことなくプラス面を強調する方法である。
 

正しい考え方を持て、というのは責任感のことである。責任を負っている人は、他人を責めたり、いつまでも落ち度を探したりしない。たいした役にも立たず、貢献もできないのは、口で文句ばかりいっている人たちである。
 
 
 
 

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成功の度合いも裕福さも桁外れの友人がいる。ある日、彼が電話をかけてきた。レストラン「ジャン・ジョルジュ」(トランプ・タワーの三ツ星レストラン)の予約を取ってもらえないかというのだ。「ニューヨークで予約も取れないなら、あの並み外れた成功は何になるのだ?」と、思わずにはいられなかった。
 

彼に予約が取れない理由はただ一つ、誰も彼の名前を聞いたことがないからだ。彼は自分の名前を表に出すのを嫌がるあまり、それが裏目にでている。有名であることの特権のひとつは、レストランの予約がスムーズに取れることだ。彼はあまりにも多くの特権を逃がしていた。
 

エゴを持ち、それを自覚するのは健全な選択である。エゴは意識の中心にあり、目的意識を与えてくれる。エゴのない人は生命力に乏しいし、エゴがあり過ぎれば横暴な性格になりやすい。ほどよいバランスが必要である。エゴをおろそかにしてはいけない。
 
 
 
 

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ランナーでも物書きでも、活動の質があるレベルに達することを「ゾーン」に入ると俗にいう。物事が自然に流れ出す、一種のシンクロニシティ(同時性)が起きている状態である。私にも覚えがある。契約を進めていて一つひとつのピースがあるべきところにおさまっていくのがそれだ。この状態を目指したい。
 

例えば、学期末のレポートを書かなければならない気持ちは誰でも知っている。手をつけること自体が楽でなかったりする。先延ばしにしたあげくようやくある晩取りかかり、するとしばらくの後、たいした苦もなく書けてしまう。やらなければと考えるほうが、実際にやるよりつらいのかもしれない。
 

何かを乗り越えると仕事はひとりでに動きだす。その大きな部分を占めるのがテンポ。(略)そうなれば物事のほうが勝手に進んでいき、気がつけば終わっている。自分は生まれつきダメな人間だと思い込んでいる人がいるようだが、テンポさえ設定し直せば失敗のシナリオは書き換わる可能性がある。
 
 
 
 

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私がメディアに登場するときのポジティブな熱血漢のペルソナが単なる見せかけでないことは、私の下で働いている人たちがよく知っている。私は表も裏もそういう人間なのだ。大きなことを考え、それをやり遂げるだけの大きなエネルギーがある。
 

ハードに働くのが好きな人間の元には、同じ倫理観の人間が集まってくる。私と一緒に働いている人々は日々のチャレンジを楽しみ、そのチャレンジを迎え撃つために自分のスタンダードを設けている。彼らの思考パターンは私のそれと合致している。
 
 
 
自問してみよう。自分はどういう水準の人間として知られたいか。それを自分のスタンダードとして設定しよう。あなたの人生にコーチと呼べる人はいないかもしれないが、自分のスタンダードを設定し、自分の価値を自覚し、ポジティブな姿勢を貫けば、必ず輝く未来に歩みだせる。
 

何かを語るとき、自分のやり方がすべてだと思ってはいけない。他人が何かを成し遂げたとき、どれだけの時間と労力を注いだか、私たちにはわからない。ウォーレン・バフェットは今、数十億の資産を持っているが、彼は6歳でチューインガムを売りはじめた。1パックで2セントの儲けだった。