ツイッター創業物語

『ツイッター創業物語』 ニック・ビルトン 伏見威蕃(訳) 2014年4月 日本経済新聞社 
 


 
 
 

1/10
1999年の夏のある日、エバン・ウィリアムズは日誌サイトを世界に公開した。このサービスをブロガー(Blogger)と呼んだ。それまでは存在しない言葉だった。コンピューターのプログラミングの知識がなくても、ウェブ日誌、すなわちブログがつくれると、エブは確信していた。
 

自分のブログ<エブ・ヘッド>でエブは他人とのデジタルな友情を固めていた。エブは毎日14時間か16時間かけて大量のコードを書き、ブロガーを拡大し、そのサービスに新しい特徴をつけくわえた。
 

マイクを大勢に渡せば、そのうちの何人かはどなりはじめて、だれかを怒らせるものだ。さまざまな差別用語を平気で使うブログに大衆は憤りを感じていた。サイトで共有している書き込みをすべて取り締まることは不可能だ。エブは原則として、”何でもあり”という考え方を採ることにした。
 

シリコンバレーの狭い領地の外では、たいがいの人間が、この奇妙なブログとやらに見込みがあるとは思っていなかった。自分のことを洗いざらい世間に教えたい理由がわからない、というものもいた。
 
 
 
 

2
「誰にもいうなよ」エブは(友人のノア・グラスに)いった。ブロガーを買収したいと、グーグルが接触してきたのだと、エブは説明した。やがて2003年2月、エバン・ウィリアムズは金脈を掘り当てた。数千万ドルを手にいれた。
 

そのころノアは、オーディオブログというアプリケーションを書いて、ブロガーと協同できるようにした。それによって携帯からブログに音声を投稿できる。グーグルのブロガー買収でノアのプロジェクトにも注目があつまった。ノアはエブを説得して、起業に必要な資金を出させた。
 

ノアは自分のオーディオ・ブログ・プロジェクト(オデオ)について説明した。音楽提供サービスに似ているが、誰でもポッドキャスティングをやって共用できるように単純化する。生まれたてのアップルのiPodでダウンロードできるようにする。
 
 
 
 

3
(2000年頃)ジャック・ドーシーは、ブロガーと競合するライブジャーナルというブログ・サービスを使っていた。ライブジャーナルの特徴は、いま何をやっているかを、現況(ステータス)メッセージとして、ブログに書き込めることだった。
 

パソコンに現況(ステータス)を表示するというアイデアは、1997年にAOLがインスタントメッセンジャーというサービスをはじめたときに脚光を浴びた。AOLは人々がコミュニケ―トする方法に関して、いっぷう変わった難問にぶつかった。パソコンから離れて画面を見られないことを、どう相手に伝えればいいのか?
 

その解決策が”アウェーメッセージ”と呼ばれるAOL独特の機能だった。短いテキストメッセージで、手が空いているかどうか、会議中なのか、ただ忙しいだけなのかをメモに残すことができる。この機能を使うティ-ンエイジャーたちは、べつの使い道を編み出した。その時の気分や、聞いている音楽のことを書いた。
 
 
 
 

4
それから6年が過ぎてノア・グラスと車に乗っているとき、ジャックは(”ステータス”という構想を)再び口にした。「どんな音楽を聴いているか、それとも仕事中なのか、人に教えられる」。ジャックのアイデアは飾り気がなさすぎると、いつもノアは思っていた。
 

ノアは、ウィンドウの外を見つめながら分析した。失敗した結婚生活のことを考えた。(略)みんながいまここにいてくれたらと思った。みんながここにいて、雨の降る閑散とした通りで、敗北や失敗の憂鬱な話ができたらどんなにいいだろう。そう思ったとたんに、ひらめいた。
 

「わかったぞ!」ノアは大声を出した。ステータスはその場にいない人々を結びつけるのに役立つ。どんな音楽を聴いているか、いまどこにいるかということを、共有するだけではない。人々を結びつけ、孤独感を癒すことが重要なのだ。
 
 
 
 

5
2006年3月11日、午前11時50分、ジャック・ドーシーが最初の正式なツイッター・アップデートを送信した。「ぼくのツイッターセットアップ中」。エバン・ウィリアムズが数日前にツイットログに書いた言葉(「ツイットログのセットアップをしている」)と似ている。
 

この共同作業で、すべてが一気にまとまりはじめた。ステータス・アップデートを人々が共有するというジャック・ドーシーの構想。アップデートはブロガーと同じように流れるストリームにするというエバン・ウィリアムズ、ビズ・ストーンの構想。
 

ノア・グラスは、タイム・スタンプをつけることや、ツイッター(「特定の種類の鳥の小さなつぶやき」)という名称を思いつき、人々を結びつけることでステータスに人間性を与えられるということを、言葉で表現した。
 

そして最後に、友情に加えて、オデオ(同時にやっていたポッドキャスティングのプロジェクト名)のいろいろな精鋭集団も、その他の社員もすべて情報を共有するというアイデアが、見事に成功した。
 
 
 
 

6
最大の問題が残っていた。ツイッターとは何ぞやということを、人々に説明しなければならない。みんな答えが違っていた。「ソーシャルネットワーク」「テキストメッセージに変わるもの」「新式のメール」「マイクロブログ」「ステータスをアップデートするもの」。
 

その結果、サイトを訪れる新しいユーザーは、何をすればいいのか理解できない。サインアップして、最初のツィートを送信するとき、たいがい次のような文面になる。「これ、どう使えばいいの?」「なんだこれ?」「ツイッターはバカ」「これは使えないよ」。
 

ジャックはツイッターは「自分がなにをやっているか」をいう場所だと考えていた。エブはミニブログのようなブログだと考えていた。そして、ふたりとも、前の年に起きた小さな地震のときに、ユーザーが使ったやり方が、ツイッターの可能性を示す手がかりだと思っていた。
 

ツイッターで地震を共有したとき、個人のことよりも大きな領域での現況(ステータス)が重要になった。サイトに来た人々は、それぞれまったく違う場所にいたのだが、時間と空間が一瞬縮んだ。セーターのほつれをひっぱり、全体がぎゅっと小さくなってしまった感じだった。
 
 
 
 

7
ウェブサイトをつくったときのやり方、二週間で継ぎはぎした、がたたり、ユーザーが殺到するとサーバーが上手く機能しなくなった。あらゆる面がガタガタになっていた。書き込みがタイムラインに表示されない。アカウントが消える。何時間もサイトが利用できなくなる。ときには丸一日以上ダウンすることもあった。
 

ふつうならサイトに問題があるせいで、サインアップする人々が減るはずだが、あいにくそうはならなかった。悪い評判が立つと、かえってツイッターとは何だろうという好奇心を煽った。「みんがサインアップして壊せば、これが何なのかわかるに違いない」そんなわけで、ちっぽけなこの会社に数十万人がアクセスした。
 

ツイッターの社員たちは、サイトを生かしておくために、新しい機能をつけ加えるどころか、いろいろなものを取り外していた。そのため、ツイッターを利用していた熱烈なITオタクたちが、欠けている機能を補おうと考えた。人々のツイートのストリームにおかしな文字が現れた。「@」と「#」という記号だ。
 
 
 
 

8
会社の問題をエブが説明した。機能停止、ジャック(CEO)と取締役会にコミュニケーションがないこと、10万ドル台に近づいているテキストメッセージングの料金、すべてツイッターの成長を阻害している。過去数か月、会社のブログは、サイトがダウンしたことばかり書いている。こんなみっともないことはないと、エブは指摘した。
 

「ちょっとした問題があります」グレッグが話しはじめた。サイトをテストしたところ、ツイッターにバックアップがないことがわかった。「データベースがいまダウンしたら、なにもかも消えてしまいます」グレッグは居心地悪そうにいった。「冗談だろう」フレッドが茶化す口調でいった。
 

ツイッターのバックアップを用意するために、グレッグが急い出ていくと、全員がジャックに目を向けた。そのときジャックは知らなかったが、あとの全員は気づいていた。選挙サイト(2008年大統領選選挙)の成否は関係ない。ジャック・ドーシーがCEOでいられる日々は、そう長くない。
 
 
 
 

9
ジャックが解雇される前、フェイスブックはツイッターを買収しようとしていた。マーク・ザッカーバーグはジャックを説得して青い鳥を売らせることを個人的な使命にしていた。ジャックが解任されるとマークは残った共同創業者を口説かなければならなくなった。
 

ビズとエブは、マークと会うために、フェイスブックのキャンパスを訪れた。延々と見学させられ、マークといっしょに狭いオフィスに案内された。フェイスブックの童顔のCEOは唯一の座る場所に行った。それがかなり高い椅子で、フェイスブックのCEOがツイッターのCEOを見下ろしている構図だった。
 

「現在の君たちの評価はどれほどだと思う?」「数字をいってみて」マークがいった。エブは口ごもり、ビズの顔を見た。それから一発放った。「五億」。沈黙があたりを覆った。「それだけの価値があると確信している」エブはいった。ツイッター側が自分たちの五億ドルの価値があると思っていることをマークは(ジャックから聞いて)知っていた。
 
 
 
 

10
「会社を売る理由は三つあると思う」フェイスブックからの(買収の)オファーを拒否した方がいい理由を取締役会に説明するメールに、エブはそう書いた。
 

一、価格が十分に満足いくものである場合(ツイッターは10億ドル企業だというが、ぼくはその何十倍だと思う)。二、ライバルからの差し迫った脅威がある場合(ツイッターをゼロにする驚異は何もない)。三、偉大な会社に参加して働ける場合(ぼくは[フェイスブック]を使っていない。それに向こうの社員やビジネスのやり方に不安を感じている)。
 

エブは、ブロガー、オデオ、ツイッターは、ただ大きなビジネスになるだけでなく、もっと重要な目的のために役立っていると考えている。全世界の人々が平等に意見をいえるようにし、権力のない人々が、権力を乱用するものに対して立ち上がるのに役立ってきた。
 

フェイスブックは、どちらかというと、企業として金を稼ぐことのほうに関心があるように思えた。
 
 
 
 
ツイッターの共同創業者のノア、ジャック、エブ、ビズは、すべて自意識に影響を受けていた。それに突き動かされていた。ノアの場合、エゴは反省の道具で、過去に自分が悪いことをした相手を理解し、将来もっといい人間になろとした。
 

ジャックには逆の影響があり、過去に自分に悪いことをした人間のことをいつまでも恨み、将来、自分がスポットライトを浴びる場所に戻る方策を練った。それを達成するためには、あとの二人のエゴを翳らせるのが上手いやり方なのかもしれない。
 

日々の会社運営について、ジャックは何の発言権もなかったがツイッターの個人メールアドレスに届くマスコミの依頼はすべて引き受けることにした。ジャックは記者やブロガーに会うことが多くなり、ツイッターの創出について語ることもあった。そういった話では、会社の歴史におけるその他の創業者たちの役割は省かれた。
 

ジャックはまったく違う物語を伝えた。ツイッター誕生を、事実とは違う神話に仕立てようとしていた。