『革命のファンファーレ』 西野亮廣 株式会社幻冬舎 2017年10月
前作『魔法のコンパス』の続きで、それ以降の話です。『魔法のコンパス』には「思い切って一番便利な部位を切り落としてみることにした。レギュラー番組以外のテレビの仕事を全部やめることにした」など、切って痛かったなどとは決して書いてはないが、スリリングな部分はあった。
今回はどちちかというと、こういう考えで、こんな手法でこんなことやっている、予定通りだ的な話が多かった。順調ではあるのかもしれないが、道なき道を歩く人間にトラブルや、心の葛藤がないはずがない。ここは苦労したが、こう乗り切ったとかいう話もあれば、もっとおもしろかったと思う。 2018/07
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絵本『えんとつ町のプペル』の制作費用はクラウドファンディングで集めた。話をする前に押さえておきたいポイントはクラウドファンディングは金のなる木ではないということ。どうやら、「有名人だから、お金が集まる」というわけでもない。
クラウドファンディングで勝つには、まずは基礎知識として、「お金とは何か?」「クラウドファンディングとは何か?」この2つの問いに対する答えを持っておかなくてはならない。
お金は信用を数値化したものであり、クラウドファンディングは信用をお金化するための装置だ。この2つが理解できれば、クラウドファンディングで勝つ為にやらなければいけないことは何なのか? その答えは、もう出ていると思う。信用を勝ち取ることだ。
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僕は『西野亮廣エンタメ研究所』というオンラインサロンをやっている。フェイスブックの非公開グループで、意見を交換したり、それこそ『革命のファンファーレ』の書きたてホヤホヤの原稿を共有したり、時々メンバー限定のイベントを行ったリしている。月額1000円、現在約1000人の会員がいる。
大御所に意見をしたり情報番組のやり方に納得がいっていないことを行動で表明したりすると、オンラインサロンの入会者が顕著に増える。僕の場合だと、300人増えれば、月の収入が30万円増えることになる。年収は360万円増える。
ブログが炎上し、野次馬が集まり、アフェリエイトの報酬が入ってくる「炎上商法」とは明らかに異質で、オンラインサロンの場合は、意思を明確に表明した覚悟と、その裏事情や日頃の考え方を知るためにお金が支払われる。
オンラインサロンという環境があるから、自分の意思を表明することができて、自分の意思を表明すれば、オンラインサロンの会員が増え、さらに意思を表明しやすくなる。
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グーグルやヤフーも「無料にした方が売上が伸びる」という判断だ。一見無料だが、その実、マネタイズのタイミングを後ろにズラしているだけだ。入口を無料にすることで、更に大きな見返りを狙っている。時間差でお金は発生しているのだ。
本屋さんで2000円で売っている『えんとつ町のプペル』をインターネット上で無料公開してみた。『フリーミアム戦略』だ。ウィキペディアによるフリーミアムの説明を、もう少し雑なことばで説明すると「通常版は無料でいいけど、ハイグレード版は有料ね!」といったところ。
絵本の場合、Web上で受けとることができる「データとしての絵本」の価値と、本屋で売られている「物質としての絵本」の価値は別の場所にある。絵本には「読み物」としての機能の他に、”読み聞かせ”という、「親と子のコミュニケーションツール」としての機能も付随している。
何度も言って、申し訳ないが、絵本『えんとつ町のプペル』を無料公開したときに、「そんなことをしちゃうと、クリエイターが食いっぱぐれちゃうじゃやないか!」という批判が上がった。
この言い分は半分正解で半分間違っている。厳密に言うと、そこには無料公開することで実力が可視化されて売上が上がる人間と、無料公開することで実力不足が露呈して売上が落ちてしまう人間の2種類が存在する。「実力がバレると食いっぱぐれてしまうレベルの人間」が食いっぱぐれるのだ。
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『えんとつ町のプペル』を個人で1万部買ってみた。理由は3つだ。
1つ目、とにもかくにも一人でも多くの人に『えんとつ町のプペル』を届けようと考えた。アマゾンが最速で、発売3カ月前から予約を受け付けてくれるという。制作の過程で「欲しい」という声が届いていた。自分で販売サイトを立ち上げ、かなり早い段階から予約販売を開始した。
2つ目、『魔法のコンパス』(前著)が、なんと、発売から約1カ月間、アマゾンで品切れが続いたのだ。一番売れる時期をド派手に手放した。『えんとつ町のプペル』は(一万部以上の予約がすでに取れていた)初版発行部数は3万部でスタートすることが決まった。交渉するにも交渉材料が必要だ、という話だ。
3つ目、僕は出版社から1万冊の本を買ったが、僕自身はビタ一文払っていない。予約者から預かったお金を出版社に渡しただけだ。ただ、お金よりも、在庫よりも、広告に使える大きなアイテムが残る。「領収書」だ。
「2435万1138円」の領収書を写真にとって、インスタグラムにアップするだけだった。これほどフォトジェニックな紙ペラはなかなかない。
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『えんとつ町のプペル』のクラウドファンディングの2度目は、「キングコング西野の個展『えんとつ町のプペル展』を入場無料で開催したい!」というタイトルを掲げ、無料開催に必要な費用を募り、6257名の方から4637万3152円が集まった。
ここで大切なのは、「たくさんの人に支援してもらって、たくさんのお金が集まった。ワーイ!」で終わらせないことだ。それで終わってしまっては、僕のファンしか集まっていない。広く世間に知らせることができていないので、自分のファンの外側に届ける仕掛けが必要だ。
あれやこれやとリターンは用意したが、『えんとつ町のプペル』の「広告」としてもっとも機能したリターンが、「『えんとつ町のプペル 光る絵本展』開催権利」だった。
『えんとつ町のプペル 光る絵本展』で展示されている絵は、紙に描かれた絵とは違い、特殊なフィルムにプリントされ、後ろからもLEDライトで照らすので、”作品そのもの”が光っている。この作品が展示される個展を、吉本興行やイベント運営会社ではなく、一般の方に委ねることにしたわけだ。
「『えんとつ町のプペル 光る絵本展』開催権利」は30万円で販売した。1か月間自由に絵を使っていただいて、入場料を取るも取らないも自由。グッズ制作も自由、売上は全部持っていっていただいてOK。ちなみに特典として、僕のトークショーもつけた。普通にイベントを行えば主催者に黒字が出るように、設定した。
さて、この「『えんとつ町のプペル 光る絵本展』開催権利」には面白い動きが起こった。なんと「『えんとつ町のプペル 光る絵本展』開催権利を買いたい」というクラウドファンディングが各地で立ち上がったのだ。
広告を創る時は、自分の手から離れてもなお、こういった「広告の連鎖」が自然発生する基盤を作ることが大切だ。これからの時代は、このセカンドクリエイターのクリエイター心をいかに揺さぶるか。いかに「作ってみたいな」と思わせるか。そこがヒットの鍵になってくる。
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映画『えんとつ町のプペル』は、とある革命家による「お金の奴隷解放宣言」から物語がスタートする。それは、こんな言葉だ。
「我々の祖先は『お金』を発明した。この発明により、海の幸と山の恵み・・その他のありとあらゆる恵みが交換できるようになり、人類は自由を手にいれた。(略)何故、『お金』が力を持ってしまったのか。原因は、肉や魚、靴や鞄に至るまで、ありとあらゆるものが時間の経過と共に腐り、その価値を下げていくのにもかかわらず、『お金』だけが、時間が経過しようと、その価値を下げないからだ」。
このあと男は、時間が経てば経つほど価値が下がっていく『腐るお金』を生み出し、腐るものを貯め込んでいても無駄になるだけなので、町の人達は積極的にお金を使い、お金が回るようになり、この町は急激な経済発展を遂げる。
「『腐るお金』で経済発展? そんな都合のよい話があってたまるか!」とツッコミたいところだが、これは1900年代の初頭にドイツやオーストリアの一部で実際にあった話だ。
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行動しない人間は、自分が行動しない理由を、すぐに「勇気」のせいにする。「勇気がないから一歩踏み出せない」と言う。これは違う。大間違いだ。行動することに、勇気は必要ない。
子供のころに一人で乗れなかった電車に、今、あなたが一人で乗れるようになったのは、あなたが勇気を手に入れたからではない。「電車の乗り方」という “情報” を手に入れたからだ。
一歩踏み出すために必要なのは、ポジティブシンキングではなく、ロジカルシンキングだ。説明できてしまうことに「勇気」は必要ない。一歩踏み出すことに勇気が必要だと思っているのであれば尚のこと、そんな不確かなものを取っ払う為にも、とっとと情報を仕入れたほうがいい。
そして、コチラから仕入ようとせずとも、自然と情報が集まってくる身体作りをしておいた方がいい。情報は行動する人間に集まり、更なる行動を生み、また情報が集まってくる。今、あなたが行動できていない理由は、あなたが情報収集をサボっているせいだ。圧倒的努力。これに尽きる。
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最後に一つだけ。
さんざっぱら、現代の広告戦略を語ってきたが、『えんとつ町のプペル』の発売からまもなく1年。今でも、自分で起ち上げた予約販売のサイトで「サイン本」の注文を受けつけて、朝4時に起きて、サインを入れて、レターパックに送り先の住所を書いて、郵便局に電話を入れて、配送手配。
これを発売日から今日まで、毎日やっている。1年間、毎日だ。この1年で、2万冊ほどのサイン本を手作業でお届けした。その上で、広告戦略を語らせていただいている。行動しよう。失敗したら、取り返せばいい。大丈夫。