『ゴルフ「ビジョン54」の哲学』 ランダムハウス講談社 ピア・ニールソン&リン・マリオット (著) 2006年11月
18ホール全てをバーディで回ればスコアは54になる。これは、もちろん難しいことだが不可能なことではない。「不可能なことを想像し、それを実現する方法を見いだそう。あなたは素晴らしいショットを打つ能力がある、すでに打ったことがあるのだから」。アニカ・ソレンスタムのコーチ、ピア・ニールソンとリン・マリオットが提唱する、不可能を可能にするための考え方と哲学を「ビジョン54」、そのメソッドを「ゴルフ54」という。
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アメリカでは毎年ゴルフを始める数だけやめる人もいて、ゴルフ界は憂慮すべき事態に直面している。その背景には、ラウンドにかかる費用と時間が大きな要因になっているとともに、多くの人がゴルフを楽しみでなく苦しみに感じて離れていく現実がある。
思い悩んだゴルファーがゴルファーが助けを求めようとすると、はるかに有能なスポーツ選手向きの技術を延々と教え込まれることになりかねない。ほとんどのゴルファーにとってスイングの根本的な改造は無益どころか無意味だ。
みなさんはすでに自分のスイングで、グッドショットを生み出している。自分のスイングで素晴らしいショットを打っている。本書はそうしたショットをもっと頻繁に打てるようになる方法を伝授する。新たなスイングは必要ない。必要なのは、より明確な目的意識だ。
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多くのゴルファーは大量の時間とエネルギーを練習場で費やし、そこで素晴らしいショットを打てるが、いざコースへ行くとちっともうまくいかない。なぜなら、ゴルフの実践とはまるで違う状況で練習しているからだ。
練習では、ほとんどの人は完璧なライで、同じクラブを使い、同じ標的を狙って、たくさんのショットを打っている。一ラウンド中に続けて8番アイアンで打つことがあるだろうか。ショットごとにクラブを変えて打とう。標的も変えよう。
信じられることを学べば、学んだことに自信が持てるようになる。
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米女子ゴルフ殿堂入り選手のパティ・シーハンは、トーナメントのパー5の最終のホールで第2打をウォーター・ハザードの、向こうのグリーンへフェアウェイウッドで打とうとした。勝ち抜くにはバーディが不可欠で、できればイーグルをとっておきたいところだった。
ところが、結果はその日最悪のスイングで、実際、おそらくはこれまでの試合の中でも最悪のスイングの一つ、完全にボールの頭をたたいてしまった。ボールがフェアウェイでバウンドし、グリーンの手前のクリークに入ると、シーハンは優勝の可能性が潰えたことを悟った。
テレビの解説者は言った「もう一度見てみましょう」そして、スローモーションで、シーハンが明らかにボールの頭をたたく瞬間を映し出した。解説者は要点を取り違えた。肝心の場面を振り返りたいなら、シーハンが打つ前にためらったところを再生すべきだった。
シーハンほどの選手なら、練習場で見事なショットを何千回も打てるだろうが、次もプレッシャーのかかった場面なら同じ失敗を繰り返しかねない。ショットの失敗をスイングのせいだと考えるのは、ゴルフを単に機械的な競技とみなしている証拠。ゴルフはもっとはるかに美しいスポーツだ。
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もしも身体面、精神面、感情面、社交面の弱さがスイングに表れているとすれば、スイングの技術を見直しても意味がない。ボールの前に立って怖いと感じれば、筋肉が緊張し、打ち急いだり、体をしっかり回転させられなかったりする。
私たちはこう呼びかけている。不可能なことを想像し、それを実現する方法を見いだそう。あなたは素晴らしいショットを打つ能力がある、すでに打ったことがあるのだから。
「思考ボックス」の中で思考と決断を行う。「実行ボックス」で集中しスイングする。
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ニクラウスはバーディで圧倒するのでなく、パーをより多く取り続けることで相手を屈服させた。着々と得点を重ねて、対戦相手がしくじるのを待っていたのだ。その戦略はたいてい成功した。
ニックファルドはこう述べている。「ゴルフで大事なのは良いショットの質ではなく、悪いショットの質なんだ」目の覚めるような見事なショットを決められなくていい、目の覚めるような悪いショットを打たなければいいということだ。
私たちの授業で生徒のひとりが二個のボールを持ってティーグラウンドに入り、一個を脇へ放って、もう一個をティーに載せた。どうしたのかと尋ねると、打ち直しに備えてボールをもう一個用意したのだと言う。彼はもうその時点で、失敗の準備を整えていたということだ。
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あなたは自分で思う以上に粘り強いし、自分のプレーのパターンに気づくことによって、自分の癖を知り、そこから抜け出せるようになる。肝心のホールで林に荒っぽいスライスを入れてしまうかといって、必ずしも粘り強くないわけではない。
2000年の全米女子オープン、アニカは施設について不満を言い始めた。アニカ「ダウンヒルだわ。風下だし、ショットの方向がつかめないわよ」ピア「それに対してあなたが出来ることは何?」
フィル・ミケルソンは飛距離に執着し、誰よりも上手く打てるロブショットを打ちたがり、攻撃的なプレースタイルのせいで、メジャー大会に40回参戦しながら1勝もできずにいた。
しかし、ついにメジャー初勝利をあげたときには、第一打で強烈なフックボールを飛ばすのではなく3番ウッドで軌道を調整する戦法にでた。しかも60度のウェッジはバッグに残したまま、オーガスタ・ナショナルのグリーンを囲む厳しい窪みだらけのライからアプローチ・ショットをして、パットを決めた。
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あらゆる技量のゴルファーに最も多く見られる失敗は、順調なラウンドの最中に突如ルーティンを破りたくなり、自分の感覚を信用せずいつもより十秒長くパットを考えてしまうことだ。このように分析を始めると感覚が麻痺してしまう。
ほとんどのゴルファー、上達を目指す初心者や一般ゴルファーは特に、プレスイング部分の技術を調整する練習で効果を得られる。スタンス、照準、グリップなどだ。そのような部分を修正するだけで、自分のゴルフを壊さず飛躍的に上達できる。
五種類のクラブで、五種類の標的に向かって、五種類のショットを打ち分けよう。どのショットに対してもコースにいるときと同じように集中しよう。五つのどのショットに対しても、人生最後のラウンドの最終ホールだというぐらいの気構えと集中力で臨もう。
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プレッシャーを感じていても思い通りのショットを打てたなら、そのスイングは上手く作用している。大切なのは、信じられるスイングを見つけて、一、二度調子の悪いラウンドがあったからといって、その信念を捨てない習慣を身につけることだ。”探しては試す” の繰り返しでは上達は望めない。
自分のスイングを見つけて、それを信じて粘り強く続けよう。求めるスイングがわかったら、それを丹念に練習しよう。人は誰でも悪い癖をつけやすいから、保持するための練習もかかせない。その際にはグリップ、照準、姿勢、テンポ、ボールの位置、バランスも点検しよう。
ただし、スイングの改造は、細心の注意を払い、熟慮して行わなくてはいけない。下手をすれば良くなるどころか悪くなることもあるし、時間もかかるからだ。新しいスイングを十分に身につけられていないと、緊張したときには自然にまた昔にスイングに戻ってしまう。
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ラウンド後にはぜひとも次の基本的な質問を自分に投げかけて欲しい。今日のゴルフで「満足」できたところは?どこを「改善」すべきだろう?うまくいかなかったところをどのような「手段」で改善したらいいのだろう?
振り返ることが、なぜそれほど重要なのか。「注意を向けるほどに成長できる」からだ。つまり集中したことは脳に貯蔵され、その経験に感情が伴っていれば、ますます強く記憶される。感情は脳で使われる蛍光ペンのようなものだ。
繰り返すが、多くの人が陥りやすい間違いは二通りある。ひとつは、自分のやるべきことに集中できないこと。ただクラブを振ってボールを打つだけではだめだ。もう一つは、実際のゴルフとかけ離れた練習をしてしまうこと。それでは、コースで行うゴルフとは違うスポーツの技を磨いていることになる。