『<インターネット>の次にくるもの 未来を決める12の法則』 ケヴィン・ケリー NHK出版 2016年7月
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いま振り返ってみると、コンピュータ―の時代は、それらが電話につながれるまで、本格的には始まっていなかったのだ。コンピューターが1台だけあっても無力だった。
コンピュターがもたらしたすべての効果は、1980年代初頭にコンピューターが電話と結びついてお互いが融合し、強固な複合体になって初めて現れたものだ。本書では、今後30年を形作ることになる12の不可避なテクノロジーの力について述べることにする。
私が本書を書いた意図は、デジタルによる変化のルーツを明らかにすることで、それを取り込めるようにするためだ。その性質が見えれば、逆らうのではなく、それと一緒に動いていける。
大量のコピー問題はなくならない。大規模な情報のトラッキングや全体的な監視状況は変わらない。所有はなくなっていく。バーチュアル・リアリティはリアルになっていく。人工知能やロボットが改良され、新しい仕事を生み出すのと同時にわれわれの仕事を奪うことは阻止できない。
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いま姿を現しつつあるAIは、どちらかというとアマゾンのウェブサービスのようなもので、安価で信頼性が高く、あらゆるサービスの裏側に隠れている実用的でスマートなデジタル機能であり、作動している間はほとんど気づかれることもない。
この共有される機能は、必要とされる量に見合ったIQを提供してくれる。電気のようにただつなぐだけで、AIの機能を利用できるようになるのだ。3世代ほど前には、手先の器用な人たちが、あらゆる同具の電動版を作ることで大金を手にしていた。
手押しポンプ? 電気を流そう。手絞りの洗濯機? 電動にすればいい。こうした起業家たちは、電気を起こす必要はなかった、送電線経由で電気を買って、手動だったものを自動化しただけだ。現在は、これまで電化されたものを、コグニファイ(認知化)する段階だ。
IQをいくらか加えることで、ほとんどのものが新しく、今までと違った、より興味深いものになるだろう。実際、これから起業する1万社の事業計画を予想するのは簡単だ。それはただ、XにAI機能を付けるというものだ。オンラインの知能を加えることで良くなるものを、ただ探せばいいのだ。
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新しいカメラはより小さく、より早く静かで、より安価になっているが、それは小型化が進んだからというだけではなく、伝統的なカメラの持っていた性能(ピンと合わせや測光、シャッタースピード)がスマートさに置き換えられたからだ。写真撮影というXがコグニファイされたのだ。
最近のスマートフォンのカメラは何層もの厚いガラスの代わりにアルゴリズムと計算と知性によって、物理的なレンズが行ってきた仕事を代替する。物理的なシャッターは、手に触れることのできない機能に取って代わった。暗室やフィルム自体も、コンピューターの機能と工学的な知能に置き換えられた。
写真撮影をコグニファイすることで、カメラはあらゆるものに組み込むことができるようになり、以前は10万ドルもかかり、バン1台ほどの装置だ必要だった3D、HDなどの他の機能も使えるようになるという革命的な変化が起きた。
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2002年頃、私は当時は検索に特化した小さな会社だったグーグルの創業者ラリー・ペイジと話した。「ラリー、いまだによくわからないんだ。検索サービスの会社は山ほどあるよね。無料のウェブ検索サービスだって? どうしてそんな気になったんだい」。
私のこの想像力が欠如した質問こそが、(未来を)予測することがいかに難しいかを物語る確固たる証拠だ。弁解させてもらえるなら、当時のグーグルはまだ広告オークションで実収入を生み出しておらず、いずれは消えていくのではと考えていた大多数のうちの一人だった。
ペイジの返事はいまでも忘れられない。「僕らが本当に作っているのは、AIなんだよ」と彼は答えたのだ。
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10年以上前、ビデオゲーム用に何百万もの画素を毎秒何回も並列に計算する必要から、画像処理ユニット(GPU)という新しいチップが考案された。2009年、呉恩達(Andrew Ng)とスタンフォード大学のチームが、こうしたチップを使えばニューラルネットを並列に稼働させられることに気づいた。
この発見が、ニューラルネットに新しい可能性を開いた。これまでのチップでは、連鎖的につながった1億のパラメータ―を持つニューラルネットの計算を行うのに1週間かかったが、呉は同じ計算をGPUのクラスタを使って1日でできることを発見した。
ニューラルネットの中のビットの一群が、例えば片目のイメージに反応したらその結果は更なる解析のためにニューラルネットの次のレベルに送られる。次のレベルでは2つの目をグループ化し意味あるデータとして次のレベルに送る。それが15階層積み重なって人間の顔だと認識する。
2006年、トロント大学のジェフ・ヒントンがこの方法の決め手となる調整を加え「深層学習」と名付けた。各層における計算結果を最適化し、積み重なった階層の上に行くに従い学習効果が強く蓄積するようにした。このアルゴリズムは数年後にGPUに移植され急激に勢いを増した。
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今日では、科学的発見のためには何百人もの優れた知性が問題にあたることがほとんどだが、近い将来には、あまりに深遠なレベルの問題を解くには、何百もの異なった知性が必要になるだろう。
数学の証明の中にはあまりに複雑なために、コンピューターを使わなくては各手順を厳密にチェックできないものがある。その証明は人間だけでは理解できず、一連のアルゴリズムを信頼する必要があり、そうした創造物をどの時点で信頼すべきか判断する新しいスキルが必要になる。
科学的手法は理解のための方法論だが、それは人間がいかにして理解するかを基準にして築かれてきた。われわれがこの手法に新しい種類の知能を加えたとたんに、科学の理解や進歩は新しい知能を基準としなければならなくなる。その時点で、すべてが変わっていく。
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サブスクリプションでは、アップデートや問題解決やバージョン管理といった終わりのない流れに沿って作り手と消費者の間で常にインタラクション(相互作用)し続けなければならなくなる。それは1回限りの出来事ではなく、継続的な関係になる。
そのサービスがあなたのことをよく知るようになり、そうなると最初からやり直すのがさらに億劫になり、ますます離れ難くなるのだ。作り手はこうした忠誠心を大切にするが、顧客も継続することにより利点をますます享受することになる(そうでなくてはならない)。
アクセス方式のおかげで消費者(コンシューマー)が製作者(プロデューサー)により近づき、あるいは消費者がますます製作者のように行動するよいになって1980年に、未来学者アルビン.トフラーが命名した「プロシューマー」になっていく。
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工業化時代のトップダウン式の社会主義は、民主的な自由主義が持つ急速な適応力、絶え間ないイノベーション、自己生成的なエネルギーといったものに太刀打ちできなかった。社会主義的な統制経済や中央集権的な共産主義政府は時代遅れになった。
一方で新しいデジタル社会主義は、国境のないインターネットの上でコミュニケーションのネットワークが広がり、しっかりと統合されたグローバル経済を通して形にならないサービスを生み出している。それは個人の自立性を高め、中央集権化を妨げるように設計されている。つまり極端な分散化だ。
私が「社会主義」を使うのは、厳密に言って、社会的相互作用が駆動する一連のテクノロジーを示す言葉だからだ。われわれがソーシャルメディアを「社会的」と呼ぶのと同じ理由からで、そこにはある種の社会的な行動がある。
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これからの30年を考えると、最大の富の源泉、そして最も面白い文化的イノベーションはこの方向(シェアリング)の延長線上にある。2050年に最も大きく、最速で成長し、一番稼いでいる会社は、今はまだ目に見えず評価もされていない新しいシェアの形を見つけた会社だろう。
シェア可能なもの、思想や感情、金銭、健康、時間、は何でも、正しい条件が揃い、ちゃんとした恩恵があればシェアされる。シェア可能なものは何でも、もっと上手く、もっと簡単に、もっと長く、いまより何万通りもの違うやり方でシェアできるようになっていくだろう。
われわれの歴史のいまこの時点で、それまでシェアされなかったものをシェアしたり、新しいシェアのやり方を考えることは、間違いなくその価値を増すことなる。