ライフシフト 100年時代の人生戦略

『ライフシフト 100年時代の人生戦略』 リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 東洋経済新聞社 2016年11月
 
 
テクノロジーの発達は人の仕事を奪うかもしれないが、今はまだない新しい技術やサービスが創出され新しい雇用も増えるだろう。お金や友人のネットワークという有形の資産と、スキル、知識という無形の資産のバランスをうまくとることが必要だ。新しい生き方を肯定し、ほかの人の生き方や仕事に興味を持って生きることが大切だ。

ちなみに私は60歳を超えて、仕事3割、遊び3割、地域活動4割という配分に変えました(変わりました)。最初は半端ないアウェー感がありましたが、1年経って、今も続く新鮮味がありがたい。意見は言う、提案もするが、決まったことには笑顔で参加する、このように自分で決めています。
 
 
 

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人が長く生きるようになれば、職業生活に関する考え方も変わらざるをえない。人生が短かった時代は、「教育→仕事→引退」という古い3ステージの生き方で問題なかった。しかし、寿命が延びれば、2番目の「仕事」のステージが長くなる。引退年齢が70~80歳になり、長い期間働くようになるのである。
 

多くの人は、思っていたよりも20年も長く働かなくてはならないと想像しただけでぞっとするだろう。不安も湧いてくる。そうした不安に突き動かされて、3ステージの生き方が当たり前だった時代は終わりを迎える。人々は、生涯にもっと多くのステージを経験するようになるのだ。
 

選択肢を狭めずに幅広い針路を検討する「エクスプローラー(冒険者)」のステージ、自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー」のステージ、さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオ・ワーカー」のステージを実践する人も現れるだろう。
 
 
 
 

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これからの数十年で労働市場に存在する職種は大きく入れ替わる。労働市場が急速に変化する中で、70代、80代まで働くようになれば、手持ちの知識に磨きをかけるだけでは最後まで生産性を保てない。時間を取り、学び直しとスキルの再習得に投資する必要がある。
 

よい人生を送りたければ、金銭的要素と非金銭的要素、経済的要素と心理的要素、理性的要素と感情的要素のバランスを取ることが必要とされる。100年ライフでは、お金の問題に適切に対処することが不可欠だが、お金が最も重要な資産だと誤解してはならない。
 

長寿化をめぐる問題はお金の話に偏りすぎている。100年ライフへの備えは、資金計画の強化だけで事足りるものではない。スキル、健康、人間関係といった資源が枯渇すれば、長いキャリアで金銭面の成功を得ることは不可能だ。一方、金銭面で健全な生活を送れなければ、お金以外の重要な資源に時間を投資するゆとりを持てない。
 
 
 
 

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100年ライフの到来は、人々の生き方のあらゆる側面に影響を及ぼす。当初、政府にとっては大きな問題が持ち上がる。政府の関心は、引退後の高齢者をめぐる問題に限定されている。しかし、次第に教育や結婚、労働時間などさまざまな社会制度についても検討が必要になる。
 

アイデンティティ、選択、リスクは、長い人生の生き方を考える上で中核的な要素になる。人生が長くなれば、経験する変化も多くなる。経験するステージが多くなれば、選択の機会も増える。変化と選択の機会が増えるなら、人生の出発点はそれほど重要でなくなる。
 

人生が長くなるほど、アイデンティティは人生の出発点で与えられたものではなく、主体的に築きうるものになっていく。私たちは、自分がどのような人間か、自分の人生をどのように組み立てたいか、自分のアイデンティティと価値観を人生にどのように反映させるかを一人ひとり考えなくてはならない。
 
 
 
 

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テクノロジーは、中スキルの労働者を「代替」するだけでなく、高スキルの労働者を「補完」してきた。その結果テクノロジーは、中スキルの働き手の職を奪う一方で、高スキルの働き手の生産性を高め、所得を引き上げてきた。
 

また、所得が上昇した高スキル層のニーズに後押しされて、サービス産業で需要が高まり、この種の産業で働く低スキルの労働者の雇用も増えた。以上のような要因が相まって、労働市場では中程度の雇用の空洞化が進んでいるのだ。ここまでは、あくまでもチェスの前半の話だ。
 

いま、私たちはチェス盤の後半、つまり、コンピューターの処理能力が劇的に向上する時代を迎えつつある。コンピュターの処理能力が高まれば高まるほど、雇用の空洞化は加速する。高スキルの労働者も、テクノロジーに保管されるのではなく代替されはじめるのだ。
 
 
 
 

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長く生産的な人生を築くために、有形の金銭的資産と同じくらい、無形の資産も重要だということは誰もが納得できるだろう。無形の資産と有形の資産を完全に切り離せるわけではない。むしろ有形の資産は無形の資産の形成を強く後押しし、無形の資産は有形の資産の形成を強く後押しする。
 

強力なスキルと知識という無形の資産がなければ、キャリアを成功させ、お金を稼ぐ力は、非常に限られたものになる。やさしく知識豊富な友人のネットワークをもっていることも、人生の途中で生き方と働き方を変えたり、キャリアの選択肢を拡げたりする上では不可欠だ。
 

無形の資産は、それ自体に価値があることに加えて、有形の金銭的資産の形成を助けるという点で、長く生産的な人生を送るためにカギを握る要素なのだ。良い人生を生きたければ、有形と無形の両方の資産を充実させ、両者のバランスを取り、相乗効果を生みだす必要がある。
 
 
 
 

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いま最も注目を集めているのは、機械学習と人工知能の進歩だ。これらの分野で大きな進歩が実現したときにも価値を失わないのは、どのようなスキルや知識なのか? そうしたスキルや知識は、どのように身につければいいのか?
 

第一に、将来的にはイノベーション能力と創造性の価値が大きくなり、アイデアの創造を後押しする教育の重要性が高まる。他人が複製したり購入したりできるようなアイデアとイノベーションを創出することを通じて、経済的な価値が生み出される時代になる。
 

第二に、こうした潮流を受けて、人間ならではのスキルと、人間による判断の重要性が増す。情報を取り出すスキルではなく、高度な直観的判断、対人関係、チームのモチベーションの向上、そして意思決定に関わるスキルが重要になるのだ。
 

第三に、長く生産的な人生を送るためには、思考の柔軟性と敏捷性など、どの分野でも役に立つ汎用スキルがいっそう必要とされるようになる。その結果、汎用スキルへのニーズと専門技能へのニーズの間での緊張関係が生じる。
 
 
 
 

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変わるのは、どんなスキルや知識を学ぶかだけではない。学び方も大きく変わる。とくに、「経験学習」の比重が大きくなるだろう。教科書や教室での学習にとどまらず、実践の活動を通じておこなう学習のことだ。

  
経験学習の価値が高まるのは、一つには、インターネットとオンライン学習が発達して、単純な知識ならだれでも簡単に獲得できるようになるからだ。知識の量ではライバルと差がつかず、その知識を使ってどういう体験をしたかで差がつく時代になるのだ。
 

その背景には、マニュアル化できない暗黙知の重要性の高まりがある。暗黙知は、身につけるのは簡単でないが、きわめて大きな経済的価値をもつ。それは知恵と洞察と直感の土台であり、実践と繰り返しと観察を通じてはじめて獲得できるものなのだ。
 
 
 
 

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自分についての知識と、多様性に富んだ人的ネットワークは、変身の基盤をつくり出す。しかし、変身資産にダイナミズムをもたらすのは、実際の行動だ。過去に例のない大胆な解決策を受け入れる姿勢、古い常識ややり方に疑問を投げかけることをいとわない姿勢が必要だ。
 

画一的な生き方に異を唱え、人生のさまざまな要素を統合できる新しい生き方を実験する姿勢をもっていなくてはならない。ほかの人たちの生き方と働き方に興味をもち、新しいことを試すときにつきものの曖昧さを嫌わない姿勢も必要だ。
 

既存の行動パターンは、自分についての理解を深めたり、外的な要因の影響を受けたりすることにより崩れる。そうした経験が新しい生き方を意識的に模索する出発点になりうる。ダグラス・ホールとフィリップ・マーヴィスは、これを「ルーチン・バスティング」(型にはまった行動の打破)と呼ぶ。
 
 
 
 

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平均年齢の上昇はしばしば、「高齢化」と表現され、老いて生きる期間が長くなるという側面に注目が集まることが多い。しかし実際には、若々しく生きる時間が長くなる可能性が高いように思える。
 

この現象を生む一つの要因は、思春期の長期化だ。人間ほど、社会的、経済的な面で大人に依存して生きる期間が長い動物は他にいない。進化学の観点から言うと、子ども時代が長いことの利点は、教育に費やせる時間が長いことにある。
 

思春期は人が柔軟性を持っている時期だ。私たちは思春期に、さまざまな選択肢を見つけ、その選択肢を残し、人生の道筋を決めないでおく。寿命が長くなれば、選択肢を持っておくことの重要性が高まるので、選択肢を探索・創造するための期間も長くなって当然だ。
 
 
 
 

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