『ゴルフの神髄』中部銀次郎 2003年10月 日本経済新聞社
1/7
グリーン外からカップインを狙うチップショット。ペニックはクレンショウに言った「ボールをアンダ-ハンドでトスしてみたまえ」。クレンショウがボールをトスすると、転がってカップから30センチのところに止まった。
「ずいぶん低くトスしたじゃないか」とペニック。「ぴったり寄せろって言うからですよ」とクレンショウが答えた。「どのクラブを使ったら、いま君がアンダーハンドでトスしたような、高さと結果を生むと思う?」
私はゴルフをするときはプレーを愉しんでいるし、愉しいからこそ1ストロークもゆるがせにしない心の余裕ももてる。勝負を潔く諦めるゴルファーほど、初めから勝負にこだわりすぎて、プレーを愉しむ余裕がない。
2
過去のショットを分析してみれば、実際には8番と7番ではほとんど距離が違わなかったり、ある場合には8番のほうが飛んでいることに気が付く。短いクラブほど正確に打てる率は高く、シャフトの長さは通常わずか半インチの差だ。
瞬間的に反応しなければならないスポーツとは違い、止まっているボールを前に自分がどうすべきか考える時間のあるゴルフにおいては、意図を明確に決めることが重要なのだ。意図があるから反省がある。
自分のナイスショットは何パーセントの確率なのか。それを知って次打に対するだけで、ミスは未然に防げるのが、ゴルフというものである。確率を知る。これこそが上達の鍵なのだ。
3
日本のゴルフ場の距離表示はあまりあてにならない。欧米のゴルフコースには、まずヤーデージ表示はない。距離は自分で目測する、それが鉄則である。
間違いを重ねるうちに、グリーンの奥が抜けていると遠くに見え、木に囲まれたりしていると近くに見えることや、逆光と順光では距離がどう違って見えるかだとかが、自分の知恵として身についてくる。
ボールの真横にある何か、木とかマウンドとかから20ヤードなら20ヤード先にある目印を決め、それを次々に加えていってグリーンまでの距離を計算する。要する時間は一瞬、誰にでも修練で体得できる。
4
じつに多くのゴルファーが、他人のことを気にして、自分のゴルフを台なしにしている。とりわけ、人の飛距離が気なることが多いように思われる。
スロープレー、単に下手、奇怪千万なスイング、どうしたら相手のプレー態度に惑わされずにすむか、それを、自分自身で見つけ出しておくべきではないか。相性の悪いプレーヤーが一緒だからといって、逃げるわけにはいかないのが、ゴルフではないか。
毎週一度は練習場に通い、コースにも月に二、三度は出るゴルファーが、たとえば90の壁に突き当たったまま上達できないなんて本来ありえない。進歩を阻んでいるのは技術でなく心の持ち方。
5
ティアップしたボールは遠くまで飛ばせるのに、芝の上から打つと飛距離が落ちる。まず、ボールの置き場所の間違い。アドレスで、ボールが左に寄り過ぎていることが非常に多い。
ティアップした場合、ボールは左足の踵の線上にくる。アイアンショットではボールの位置は10センチほど右にくる。アイアンショットは、クラブヘッドはソールが地面に触れる以前にボールに当たり、それから最下点を迎えるものだ。
たまにいいショットをしたとする。グリーンを狙う段になって、これを何とかピンのそばに乗せたいと思う。こう思った瞬間、もうミスは生じている。自分自身の力以上の結果を望む欲望が、自分を縛ってしまう。
6
「やっぱり、頭のいい人はゴルフはうまくなれないみたいだ」語弊のある言い方だが、過去さまざまなゴルファーと知り合ってきて、正直わたしはそう思っている。
彼はアドレスに入り「先にいれられちゃったか、やりにくいな」と言った。が、私はその種の言葉は、心で思っても口にすべきではないと思う。その「やりにくさ」は口にすることによって、さらに増幅されてしまうからだ。
「問題は13番なんだ。5Iで打とうと思っているんだけどね」。これから12番に向かおうとするとき、何で13番のことまで考えるのか。そして13番、彼はドライバーを手にした。彼が刻もうと思った瞬間から、もはやドライバーでいいショットはできないホールになっていた。
7
「われわれは、ゴルフスイングをあまりにメカニカルにしていないか。ゴルフは決して純粋な科学を意味するわけではない。芸術的なフォームなのだ。アインシュタインは偉大な科学者だが、ゴルファーとしてはヘボなのだ(ボブ・トスキ)」
「平常心というのは、大ミスショットですら、まだまだうまく打ってるうちだと自覚することである(ジョニー・ミラー)」
「クラブを放り出すんだったら、前へ投げたまえ。そうすれば、後ろに戻ってクラブを拾い上げるなんてエネルギーを浪費しないですむ(トミー・ボルト)」。
「ゴルファーの中には、スイング中にバランスを崩す人がいるのにわたしは気づいた。頭が重いのである。きっと髪の毛が多いのだろう(ベン・ホーガン)」。スイング中に頭を動かしては絶対にいけないと、鉄人は言っているのである。