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ニューエコノミー勝者の条件(ケビン・ケリー)

『ニューエコノミー勝者の条件』 ケビン・ケリー 酒井泰介/訳 1999年 ダイヤモンド社
 
 
 
 

<はじめに>

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われわれはいま、小さくなるコンピュータと大きく広がるコミュニケーションが生むニューエコノミーの時代を生きている。
 

過去の経済構造を振り返ると、新たなルールに従う者は栄え、背いたものは衰えたことがわかる。今日の不安、喪失感、興奮、そして成果は、世界全体のハイテク化とともに無数の人びとを巻き込もうとしている巨大な変化の、ほんの皮切りにすぎない。
 

ニューエコノミーにはあきらかな特徴が3つある。
グローバルであること。
無形のもの、アイデア、情報、関係、に重きが置かれること。
すべてのものが相互に深く結びついていること。
これら3つの特徴は、世界をくまなく覆う電子ネットワークによって新しい市場と社会を生む。
 
 
 

<スウォーム・パワーをつかめ>

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どんなネットワークも2つの要素から成り立っている。ノード(交錯点)とそれを結びコネクション(線)だ。いま地球を覆いつつある巨大ネットワークでは、ノードのサイズが極小化していく反面、コネクションは質量ともに拡充しつつある。これら2つの物理的領域から、ニューエコノミーが姿を現わす。
 

やがて缶入りスープにもチップが搭載されるだろう。電灯のスイッチにもチップだ。本の背表紙にもチップが仕込まれるようになる。シャツにすら1つはチップが縫いつけられる。世界では毎年10兆もの製品が生まれているが、それがすべて、1片のシリコンをともなって出荷されるようになる。
 

インターネットを筆頭とする分散処理システムの登場によって、われわれは中央からの制御を最小限にしか受けないネットワークの能力を知りつつある。それが巨大な潜在能力のほんの一端でしかないというところに、ニューエコノミーの大いなる興奮がある。
 

あらゆるものにチップを張りつけ、次にそれを接続する。全人類をも結び付ける。すると全世界を結ぶネットワークが完成する。ネットワークに可能な限り自主性を持たせ、監督は必要最小限に留める。その中でわれわれは交流し創造する。これがネットであり、われわれの未来だ。
 
 
 
 

<成功を呼ぶ成功>

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ネットワークの価値はメンバが増えるに従い爆発的に増大し、それがさらに多くの参加者を引きつけ雪だるま式に価値が高まる。経済学者ブライアン・アーサーはこれを収益逓増と呼んだ。「収益逓増とは、一歩先を行く者はいっそう先を行き、出遅れた者は一段と遅れをとること」。
 

自己増殖的循環のことを、ポジティブ・フィードバック・ループという。収益逓増の法則と(経済学でいう)規模の経済は、いずれもポジティブ・フィードバック・ループの上に成り立つ。だが、両者には決定的な違いがある。
 

第一に、規模の経済では価値は一定の割合で線型的に増える。ネットワークでは価値は幾何級数的に増える。第二に、これが大切だが、規模の経済は競争に勝つためにより低コストで価値を生む努力から生まれる。対照的にネット上で増える価値はネット全体が生み出し、分かち合う。
 

こうしたポジティブ・フィードバック・ループが形成されるのは「ネットワ―クの持つ外部性」のためだ。電話システムの価値は、すべての電話会社の資産を合計しても得られない。それは個々の電話会社の外部に、つまり、巨大な電話ネットワークそのものの存在する。
 
 
 
 

<潤沢さが価値を生む>

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ネット・エコノミーでは、ある行動の価値は関連するネットワークの数いかんで加速度的に増えるので、少しでも多くのネットワークと接触すべきだ。これが潤沢価値の法則だ。自社製品やサービスを取り巻く組み合わせをできるだけ増やすことだ。
 

工場で生産されるドアの鋲釘のような静的な製品を想像してみよう。ネット・エコノミーでは、これをできるだけ多くのシステムとつなぐことが仕事になる。施工業者のシステムに適合させるには標準サイズで生産し、標準的な自動釘打ち機で使えるようにする。
 

バーコードをつけて小売店のPOSシステムで処理できるようにする。交信用チップを埋め込めば侵入警報システムができるし、家庭を結ぶネットワークの一部にもなる。新たなシステムにつながるにつれて、釘の価値が上がるのだ。
 

さらに、システムも、システムにつながる他のあらゆる部分も釘の恩恵に浴すのである。たんなる釘でさえこうなのだ。もっと多くのシステムやネットワークにつながる、より複雑なモノやサ-ビスなら自らの価値やシステムの価値を劇的に増大することができる。
 
 
 
 

<ネットを肥やせ>

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国家であれネットワークであれ、個人を繁栄させる最も確実な方法は、システム全体を繁栄させることだ。工業時代の一つの明確な特徴は、個人の繁栄が自己努力以上に国家自体の繁栄に依存していたことだ。
 

マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者レスター・サローは、最低賃金層の昇給が、最高給層の賃金をあげる最善の方法と書いている。潮が満ちれば船の帆先も上がるという理屈だ。ネットエコノミーにおいてはこの傾向はさらに強まる。
 

自社製品を成功させたかったら、準備するネットワ―クを持ち上げるのだ。自社が成功するためには、サポートするスタンダードを伸ばすことだ。そして、自国の発展を期するなら、他国が繁栄するためのコネクションを質量ともに充実することだ。
 
 
 
 

<消える職業、生き残る職業>

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すべてがネットワーク化していくという傾向も、(工業化した時と)同じように想像しにくい。しかしその足取りは着実だ。最初にネット・エコノミーに取り込まれるのは、コードハッカー、クールハンター、ウェブマスター、アナリストなど、新たに生まれた世界の新しい職業だ。
 

次に昔から変わらぬ仕事を、新しいツールの利用で効率化できる職業が続く。不動産業者、科学者、保険数理士、問屋、ホワイトカラー全てだ。やがてネット・エコノミーはおよそ想像しにくい仕事、肉屋、パン屋、ロウソク製造業者に至るまで、ネットワークの知識で満たされるのだ。
 

ネット・エコノミーの3つの大波
大規模なグローバリゼーション、
物質から知識への着実な移行、
深く広く広がるネットワーク化、
はあらゆる浜辺を洗う。その浸食作用は確実に強まっていく。これらが相まった結果は、一言に集約される。ネットが勝つ。
 
 
 
 

<自分の弱みを捨てろ>

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未来の自動車をつくり出せるのは、起業家精神に富む自動車メーカーが納入業者、行政当局、保険会社、道路建設会社、そして競合企業とネットワークを組み、機敏に、また腹を据えて、荒野に踏み出した場合のみである。
 

ネット・エコノミーにおいては、最強のライバルは九割方、同じ分野からは出てこない。この激動の時代には変わらないものはほとんどないのだから。イノベーションに目配りすることは欠かせない。イノベーションはどんどん他の分野から「感染」してくる。
 

広く浅い警戒を怠らないことが、不意打ちを避ける唯一の方法だ。自分の業界の業界紙など読まなくていい。ほかの業界の雑誌に目を通そう。人類学者、詩人、歴史家、芸術家、哲学者と話をしよう。17歳の人間を雇おう。こうした自分と関係のない現場に接するほど、なにか大切なものに出くわす可能性が高い。
 
 
 
 

<関係性のテクノロジー>

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ドン・ペパーズとマーサ・ロジャースは見識あふれる『One to One 企業戦略』でこう述べている。

「顧客と企業間の間の学習関係は、接触を重ねて顧客ニーズが絞られるにつれて、どんどん高度化する。たとえば顧客が食料品店に先週自分が買った物のリストを出させて、それを更新するかたちで注文するたびに、彼女は食料品店に自分が買う商品とその頻度を”教育”しているのだ」。
 

一人の顧客のためだけにあつらえた商品を提供することは、Rテク(関係性テクノロジー)の第一歩だ。ニ番目は、顧客の好みを想起する情報と知識、三番目のステップは、言われる前に相手の欲しがるものを予想することだ。これこそ関係性の良し悪しを計る物さしだ。
 

アマゾンの推薦は、よく似た読書傾向を持つ人びとの集約的な行動から生み出される。「お客様、これらの作品をお勧めします」。そしてたいていそれは的を得ている。事実、この推薦機能は非常に便利で、これが彼らのマーケティングの中心であり、売上増大の源だ。
 

ウェブはRテクを生む温床だ。一人が何らかの検索に成功したノウハウをほかの人びとと共有すれば、全員の検索能力が平等に向上する。「コラボレーション・フィルタリング」とも呼ばれるこうした社会的ネットワークの機能は、企業や小集団のみならず、インターネット上に広まっている。