新規・再掲」カテゴリーアーカイブ

危機の時代(ジム・ロジャース)

『危機の時代』 ジム・ロジャース 2020年5月 日経BP
 

ジム・ロジャースはウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並ぶ世界三大投資家の一人。1990年にバイクで世界6大陸、15万キロを走破しギネス記録をつくった。そして1999年から3年半、改造ベンツで116カ国24万5千キロを走破しこの旅もギネス記録となった。
 

世界を冒険しながら、その国や街を自分の眼で見て世界の変化を感じとり投資に生かす。それはオフショア・ヘッジファンドという彼のキャリアの中から生まれた、何より、仕事と人生が一致した、ジム・ロジャース流の生き方である。
 

「あなたがお金を見つけるのではなく、お金があなたを見つけてくれるだろう。物事が本当に得意な人は少ない。自分の能力を磨き、ほかの人にないような専門性を身に付けようと努力した方がいい」。ジム・ロジャースは、楽しみながら世界を観察し、変化を予測し、自分なりの投資術を磨き上げればお金の方があなたをに見つけてくれるだろうと言う。
 
 

 
 

1
1968年に600ドルを手に投資の世界に足を踏み入れ、1980年に37歳で現役を退いた時には、私は一生冒険して過ごすという夢を果たせるだけのお金を手にしていた。

オフショア・ヘッジファンドの共同責任者として、世界の資本や原材料、商品、情報の流れを分析し、他人が投資しないところに投資をし、まだ注目されていない市場を発掘して利益を上げた。私が成功したのは主にこのやり方だった。

私がウォール街で働き、また最終的には長期投資をすることで目指していたものは、業界の他の人々とはちょっと違っていた。私は人生を楽しむ自由を手に入れたかった。世界中を見て回りたかったのである。

他の旅行者がまったに目にすることなく、そこに行って初めて見える、その場に立たなければわからない世界を見たかったのだ。これこそ本当の世界の姿だと思えるものを。
 
 
 

2
1965年、GMは世界で最も裕福で最も強力な会社だった。GMには借金さえなかった。あるコンサルタントがやってきて、取締役会で「日本メーカーがやってくる」と話した。「誰が日本メーカーを気にする必要があるのか」。経営陣は鼻で笑った。
 

50年後、GMは破産し、半世紀前に高いシェアを持っていたビッグスリーは、日本車には競争力がないと思い込んで失敗した。
日本メーカーはすばらしい品質のクルマを手頃な価格で製造し、トヨタは世界最大の自動車メーカーになった。世界で最高のステーキハウスが米国ではなく東京にあるように、日本人の品質へのこだわりは群を抜いている。
 

しかし戦後、危機から立ち上がり、高度成長を遂げた日本の成功は台無しになった。バブル崩壊後、経営に失敗した企業が破綻しないように救済するケースが目立つなどして、経済は長いあいだ落ち込んだ。
だめになった企業が倒産しないことは、長期的に見て間違っており、日本は、失われた10年どころか、30年にわたる経済の停滞を経験する。
 
 
 

3
私が1973年にクォンタム・ファンドを設立した頃のことだ。当時はベトナム戦争の終結に伴い、米国の防衛費は大幅に減少していた。このため米国の防衛産業は存亡の危機に瀕していた。
 

私は米国の様々な防衛産業を訪問し始めた。ロッキードは当時破産状態にあったが、高度な技術開発力で知られていた。ワシントンDCの議員に聞いても、米国防総省が高度な電子戦に向けて、準備を急ぐ必要があると感じているのは明らかだった。
 

当時のロッキード株はわずか2ドルほどで取引されていたが、「電子の時代が到来し、ロッキードが重要な役割を果たす」という私の読みが当たり、同社の価値は急上昇した。その後の数年間でロッキード株は100倍になった。
 
 
 

4
私は、他の人が絶望し、何でも手放そうとするときに、うまくいきそうな対象を見つけて投資する。これは基本的な原則だ。危機の最中であろうと、危機の後であろうと、危機の前であろうと、私はこうしたスタンスで投資を続けている。
 

バブル時に投資をすべきでないとはすでに述べた通りで、ブームになっている産業が巨大になったとしても、お金を稼ぐことは難しい。バブルに投資してもお金を稼ぐことはなかなかできない。
 

危機が起こると、「ああ、ここにチャンスがある」と私は考えるが、ほとんどの人はそうは思わない。多くの人は観光客として新しい国へ行って現地を見ただけで、この国は素晴らしいと考えるが、あなたはそう思うべきではない。
 

私も若いころは、旅行して街を見て「すごい、なんて美しい建物なのか」と素直に思ったものだった。しかし長年、投資を続ける中で、美しい建物を見るだけでなく、周囲を見渡してほかに何が起きているかを学ぶことが、重要だと考えるようになった。
 
 
 

5
自分が知っているものにだけ投資するというルールを守るべきだ。
 

私は40の失敗を犯して、3つの成功を収めた。だが、これら3つの成功はとても大きかった。投資の世界には「損失を減らして、成功を収めよ」という格言がある。これは40の失敗と3つの成功と同じようなものだ。
 

大きな成功を収め、その後に失敗した場合は損失を減らすことが重要になる。それが投資の世界の鉄則だ。さまざまなチャレンジをしてたくさん失敗したとしても大成功がそれを帳消しにする。
 
 
 

6
偉大なことは小さなことから始まる。それが成功の歴史だ。ナポレオンはフランス領コルシカ島出身の小柄な兵士だったが、フランス史上最も偉大な将軍になった。ナポレオンは多くの小さな勝利を積み重ねて成長し、非常に大きな成功を遂げた。
 

あなたがお金を見つけるのではなく、お金があなたを見つけてくれるだろう。物事が本当に得意な人は少ない。自分の能力を磨き、ほかの人にないような専門性を身に付けようと努力した方がいい。
 

世界は物事があまり得意でない人であふれている。歌でも、文章でも、リサーチでも同じだ。あなたが何かが得意であれば世界があなたを見つけるだろう。
 
 
 

7
教育はどんどんオンライン化されていく。プリンストン大学で教えている内容とほとんど変わらない授業を、はるかに安い費用で、オンライン受講することができる。
 

米国の有名大学の教授の平均年収は20万ドル(約2200万円)を超えるという調査結果がある。学長になると年収は100万ドル(1億1000万円)を上回る。大学教授には、それほどの高給が支払われる。しかし、それは米国の大学の没落につながるだろう。
 

これからの大学は、オンライン授業をもっと活用せざるを得ないだろう。米国の大学は、スペイン語の教員を2万人も必要としないはずだ。優秀なスペイン語の先生1人がオンラインで教えればいい。