デジタルトランスフォーメーション

『デジタルトランスフォーメーション』 ベイカレント・コンサルティング 日経BP社 2016年9月
 
 
IT化で業務を効率化するだけで終わっている企業に対し、自社のサービスや製品を、デジタル化による生活環境の変化、SNSなどで情報を自らが豊富にもつ顧客の変化に対応したものに変革していく必要がある、そのためには会社全体のデジタル戦略を立案する専門の組織や体制を構築すべきである、という。

「デジタルトランスフォーメーション」というものの概要をつかみたい、という会社の経営者や管理職が読むには役に立つ本だと思う。ただこの本を参考に、中小企業が実際に自社のデジタル化を進めていけるかというと、それは難しいだろう。
 
 
 
 
 
 

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(顧客は)スマートフォンや GPS を活用したアプリを使いこなし、利便性や快適性を獲得することができる。デジタル空間を活用したコミュニケーションサービスも充実してきた。Facebook や Twitter、LINEなどにより、自分が得た情報や経験はあっという間に共有することができる。
 

デジタル空間における情報の広がりにより、製品・サービスを提供する側よりも、サービスを受ける側の方が情報量を豊富に持つ。店舗やコールセンターというリアルな顧客窓口は、デジタル空間における情報を把握・理解した上で接客に当たらなければならない。
 

ITを活用して破壊的イノベーションを推進する企業、デジタルディスラプターは、顧客に新しい感動を呼び起こすサービスを提供する。顧客はさらに進化し、古臭くなったサービスには見向きもしなくなる。
 

既存の事業がうまくいっているほど注意が必要だ。これまで優良な顧客だったからといって、今後も顧客でいるとは限らない。新しい製品・サービスに顧客を奪われる可能性はないのか、といった点検を定期的に行うことが必要だ。
 
 
 
 

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既存の製品やサービスを電子化しただけでは、顧客の感動を呼ぶことは難しい。顧客が「面白い」と感じて、他人に紹介したくなるかどうかが鍵となる。成功するためには、顧客が驚くよう実経験、いわゆるカスタマーエクスペリエンス(CX)を提供することが必須となる。
 

顧客は自分のCXを基に、サービスに優劣をつける。顧客としての感想をソーシャルメディアに流すことで、その顧客経験はネットの世界を介してあっという間に広がる。それを見た消費者が「面白い」と思えば、一斉に同じ製品やサービスを使い始める。飽きれば次のものをデジタル空間に探しにいく。
 

高度化する顧客の欲求に応えていくためには、顧客が何に「快適性」「面白さ」を感じるのか、について企業がアンテナを高く張っておく必要がある。「顧客が何に価値を感じるのか」「顧客の嗜好はどのように変化しているのか」をきちんと考えなければ、顧客からの支持を失い、製品やサービスは売れなくなる。
 
 
 
 

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デジタル技術を活用した製品やサービスは、常にその可能性を検討しておかなければならない。既存の事業領域で高いシェアを持ち、成功してきた企業ほど今の事業のディスラプション(破壊)を躊躇する。結果として、新しいことへの着手が遅れる。
 

対応が遅れると、好調だった既存事業が外部のディスラプターによって大打撃を受ける。これは日本の製造業、特にハイテクメーカーが経験してきたことだ。これまでの強みに磨きをかけることに注力し、新しい技術への対応を遅らせてしまう。いわば「イノベーションのジレンマ」状態と言える。
 

デジタル化と無縁だった業界でも、ディスラプターの登場で一気に打撃を受けるケースもある。米国のIT企業である、アマゾン・ドット・コム、ウーバー・テクノロジーズ、エアビーアンドビーがそうしたディスラプターの代表格である。共通するのは、既存の産業隙間を突いた新しいビジネスモデルのアイデアだ。
 
 
 
 

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日本企業はこれまで、ITについて大量の業務処理を効率化するためのツールと見立ててきた。事業部門の中には「ビジネスを伸ばすことが自分たちの仕事」と割り切り、自分たちの業務にどのようにITを活用するのか、といった発想を放棄したところも見られる。
 

企業は営業利益率向上という名目の下、コスト削減を積極的に推進し、ITに関してもコストを切り詰めた。結果、企業の業務を効率化するために基幹系システムは「どうしても必要」という名目で費用がかけられ、新しいIT投資には積極的には行ってこなかった。
 

これからのイノベーションには、ITの最新技術に対する理解が必要不可欠といえる。技術の詳しい内容を知っているという意味ではなく、「この技術で何ができるか」を正しく認識しておくことが必要だ。技術を理解するだけでは十分ではない。変わっていく消費者のニーズを的確に捉えなければならない。
 
 
 

 

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「アンビエントIT」という言葉も登場している。「周囲や環境に溶け込むIT」という意味であり、ITが人々の生活に見えない形で溶け込み、快適な生活環境を提供するというものである。
 

人々の生活に溶け込んだ情報環境が、陰ながら人々の状況をウォッチし、膨大なデータをもとにセンシングし、必要なときに、必要な場所で、情報を提供したり、快適で安全な生活環境をを提供するという概念である。デジタル技術をまったく意識することなく生活できる世界を意味する。
 

衣類が人間の汗を感じ取ったら、除湿器が動き始める。体温が下がっているのを感じとったら、エアコンの暖房が動き始める。ペットボトルをいつも半分くらいしか飲まずに残してしまう人の場合、次回からは自動的に半分の大きさで配達される。
 

アンビエントITの描く10年後の未来とはこのような膨大なデバイスを利用するものなのだ。これは即ち、デジタルマーケティングの裾野が圧倒的に広がることも意味する。企業としてはいち早く、この流れを察知し、マーケティングに参入していけるよう準備しておいたほうがよい。
 
 
 
 

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イノベーションといっても、まったく何もないところから考えるのは難しい。これまでの経験や知識をベースに考えることが現実的だ。自社のサービスに、ちょっとした手法や工夫を組み合わせることでイノベーションになり得ることもある。
 

大企業も、業界内に閉じた視点で戦っているだけでは、この先勝ち残っていくことは難しい。幅広く新たな技術を取り込むためには、スタートアップ企業をはじめ、広くIT活用を検討している企業に関する情報収集を怠ってはならない。協業相手としての可能性を考慮したほうが得策なのである。
 

オープンイノベーションとは、自社の製品やサービスが抱える課題に対し、自社の研究開発だけで解決するのではなく、必要に応じて社外の技術の中から最適な組み合わせを探し出し、より迅速に解決することを目指す試みだ。
 
 
 
 

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隣接領域への展開を行っていくことで成功したデジタルディスプラプターの代表格がアップルだ。iPhone は出発点となる携帯電話業界だけで価値を出したわけではない。むしろ、携帯電話としては、稼働時間や操作性、価格などで既存のフィーチャーフォンに劣っていた。
 

ところが、世代を経るたびに新たなセンサーや機能を搭載し、多くの業界を侵略していった。カメラ機能の強化はカメラ業界、ビデオ業界を、GPSやデジタルコンパスはカーナビ業界を侵食していった。
 

現在の製品・サービスの使われ方が定まっていても、UIも含めた新たなユーザーエクスペリエンスに訴求することで、逆転できることを証明して見せた。逆に考えると、業際を越えてやってくる競合に対しては、業界内で築いていた地位が一瞬で崩される可能性がある、ということだ。
 
 
 
 

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デジタル世界の広がりによる顧客ニーズの変化に対応し、新たな次元の競争に打ち勝っていくために、企業はデジタルによる企業革命、いわゆるデジタルトランスフォーメーションを加速しなければならない。そのためには、デジタル戦略を立案・推進する専門の組織や体制を構築すべきである。
 

デジタル時代の競争相手は、既存の競合だけではない。これまで指摘してきた通り、新しいゲームのルールを持ち込み、業界構造を破壊するデジタルディスラプターである。生半可なことでは対応できない。デジタル戦略の立案と推進を組織的に担保しておくべきなのだ。
 

デジタル戦略組織のトップにはCDO(最高デジタル責任者)を据える。CDOとそのスタッフであるデジタル戦略組織は、各事業部門の事業を理解しそれぞれのデジタル戦略の方向性を合わせる。企業として重要なデジタル化のテーマを優先順位付けし、必要な投資、や経営資源を割り当てる。
 
 
 
 

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